刀用語の中に「身から出た錆」という言葉があります。日本刀はたたら製鉄によって玉鋼で鍛造されますが手入れをしなければサビが出て来ます。包丁もステンレスなどのサビにくい鉄もありますがどの鉄も手入れを行わなければサビがでます。
この身から出た錆は刀身から出た錆によって刀身を腐らせてしまうことから自分自身の行いや過ちが原因で、あとで災いを受けて苦しむことなどで使われます。似た諺に刃から出た錆は研ぐに砥石がない、または刃の錆は刃より出でて刃を腐らすとも言います。
このサビは、自業自得などとも言われますが人間関係でも同じことが言えるように思います。一度、仲良くなったからと放置していれば知らず知らずに錆が出てきたりするものです。その錆を手入れすることで、日頃の関係を良好に保つことが出来ます。
このサビというものは、刀や包丁でいえば刀自身が出てくるものです。決して他からやってくるのではなく、刀が自ら錆が出てきて腐っていくのです。鉄がサビる原因は一般的には空気と水が原因ですが、特別に鉄を水に濡らさなくても空気中に含まれる水分、その湿度がある程度高くなると鉄の表面に目に見えない薄い水の膜が出来て腐食が進むのです。なので、何もしなくてもこの自然の中にあればサビが進んでいくということになります。
刀身がサビて腐食してしまえば、鞘から刀が抜けなかったり、折れたり、切れなかったりと役に立てなくなります。必ずサビるものだからと、常に手入れを行い常にサビがつかない状態にし続けることが大切になってきます。これは日々の鍛練の徳目の一つではないかと思います。
身からサビが出てくるのだから、その身を常に内省し、錆びないように手入れをしていくのです。言い換えれば、自分の状態を常に腐らせないように発酵させ続けていくこと、つまりは平常心を維持していくために日々の実践を保っていくことのように思います。
日々に鍛練していればサビに気づく感性が磨かれていきます。錆が出ているなというのは、拭い紙で拭けばすぐに気付けます。何もしていなくても紙で拭けば錆がついているのが分かり、油を塗って保存していてもまたその油が乾いているのも拭えば分かりますから常に自らの刀身ともいえる初心を紙で拭い、それを他のことで忘れてはいないか、忙しさの中で見失っていないかと常に拭き改めることによって刀身の輝きを保つのです。
守るということはとても難しいことで、何百年、何千年とサビない状態を維持するのは御互いに関係を保つために手入れをし続けたということです。人間関係も同じく、常に距離が近ければ近いほど手入れをし続けていくことで互いの信頼がサビないように精進していけるように思います。
身から出た錆に気づく感性、身から錆が出るからこそ日々の平常心や手入れを大切に実践していきたいと思います。