以前、中国で仕事をしていた時にある人に言われたことが今でも心に残っている。
それはある大きな商談を任された後の会食の席でのことだった。
日系の商社や中国大手のメーカーの経営者の方々と歓談をしていた時のことだ。
その頃、若さからくる無知な自分故の過剰な自信があったのかもしれない。
大きな商談をまとめた後だったので、自分なりに満足感があったのかもしれない。
私はその経営者の面々に対してこう切り出した。
「私はこの2年半で日中間のビジネスは大方理解しました。私は経験以外は機知に富んだアイデアと技術、人脈、スキル、言語、そして若さと可能性というすべてを併せ持っているダイヤの原石です。もし私が独立開業したらお取引をしていただけますか?」
私は、必ず「もちろん」という返事が返ってくると思って自信満々に聞いた。
そして、何人かは笑いながら「歓迎歓迎」と相槌を打ってくれた。
ただその中に、私が最も信頼している関係の良いパートナーは違った。
俯いて考え込んで黙っているのだ。
気になったので帰りの車を同行しその車の中でもう一度尋ねた。
するとこの方は私にこう言ったのを今も忘れられない。
「私は、あなたが独立しても取引はしませんよ」
酔っているのかと耳を疑い再度なぜかを尋ねると静かにこう言われた。
「今のあなたには根がないからです。」
この言葉が衝撃でその夜は眠ることができなかったことを覚えている。
私が帰国して起業を決意したのはこの方のこの言葉があったからだ。
その頃の自分はだから開業して根をはるのだと思っていた。
つまりその頃は「根をはる」というのは単に会社を創ればいいのだと思っていたのだ。
そして今の年齢になり会社を経営してみるとその方が語った言葉の意味が少し理解できるようになったような気がする。会社においても、国においても、世界にとっても「根になる」ということはいったいどういうことなのか?そして根があるというのはどういうことなのか?
葉ではなく枝ではなく、幹ではなく『根』になるということ。
10年の前のことなのに今でもどうなのだろうかと自問自答の日々。
まだまだ「根をはる」人には程遠い今の自分が在る。
昔の思い出と出会い、有難いその言葉の意味に本当に感謝を覚える。
いつの日か、根をはってもう一度その方と色々なことを伺ってみたいものだ。