衰退と興隆

私はいつも世界のニュースに目を向けるようにしている。

そうしていると如何に大国が次第に衰退しているか、新興国が急成長しているかなど歴史が変化していることがよく観える。

歴史を思うとき、歴史からみえてくるのは人間が歴史を生み出しているという真実。

そしてその歴史は、ある一定の普遍性をもって左右前後が繰り返され、そして流行により変化し続けるというという真理が書き記されていくことがわかる。

いかに国家が衰退するかについて歴史哲学家で社会福祉事業の先駆者であるアーノルド・トインビーがその著書「歴史の研究」の中でこう述べている。

【「歴史における最大の要因として自己決定能力の喪失」、つまり自らの運命を自ら決定していく能力を失うことが、文明の衰退や大国の滅亡の根本原因だということです。すなわちそれは、たとえ力においていかに小さな存在であったとしても、「自らの選択」によって未来を切り開こうとする意志の力こそ、生存の究極の条件だと意味している。】

つまりこれは、自らの意志で自らの将来を決定していくという自立する精神が備わっていることが歴史を人間の力で正しい方向へ生み出すためのプロセスだとしているのだと私は思う。

人間が、より衰退に向かうとき、「心や精神」よりも「モノや物質」に価値観を奪われ、そして「自立」という自分の意志で立つよりも、「依存」という誰かに自らの運命を委ねて依るというものになっていくのだろう。

そうしているうちに、取り返しのつかない負のスパイラルに入り、気がつくと国民や国家が衰退の一途を辿ることになるのだろうと思う。

不思議に歴史には書かれていること以上に、その事実にウソはなく、人間というものを中心に鑑みるとやはりそういうことなのだという史実の真理に気づくことができる。

今、この国は、本当に危険な状況だと私は思う。

なぜなら、私が自らの足で見廻って、直接現場を見聞きしている現在の幼児教育の環境を鑑みているからそれが理解できる。

子どもたちが主体で子ども自ら自立や自律をしながら、自らの選択や意志の力をはぐくむというよりも、保護者をはじめ多くの大人から一斉に他者に依存して、大人の言うことをただただ聞くだけで未来は安心だという虚妄のシンジツを押し付け強いられる。

そして、子どもが自らが自らの意志で未来を良くしよう、人間を良くしようとするのではなく、大人誘導のクレームや他者への批難、または自分勝手に都合を優先する社会を当然として歪んだシンジツを子どもへ刷り込んでいく。

これでどうして、人間が本当に自分の意志で世界をよくしようとする内面からの本質的な生きる力(活力)を無限に創造することができるのだろうかと思う。

人間が、自立するというのは、運命という名の生きる力を否定した内面の虚ろな妄想に常に打ち勝ち、共に支えあいながら調和をしていくことにつながっている。

万物の霊長として、私たちは自分の尊厳を見失ってはいけないと思う。

最後に、私の尊敬するヤヌシュ・コルチャック先生が仰っていた言葉を思い出す。

 「世界を改革するということは、教育を改革するということだ。」
 「子どものことをいちばんよく知っているのは子どもなのだ。」

コルチャックは悲惨な時代にあっても、子どもを信じ、子どもを認め、人間を愛し、それを子どもの自治を通して、そうやって未来と国の治すことを実践した。

子どもたちが自らで自立や自律をするために、子どもの存在を深く信じたのだ。

私は幼児教育に、子どものたちの自立や自律を促し、生きる力をはぐくむことは世の中をより素晴らしい社会に発展させていくためには必ず通る道だと信じている。そしてそれが国を救い、世界を共生の理念を基に平和な社会を築いていく礎となることになると確信を持っている。

だからこそ私の師匠もそこから逃げないし、明確な理念と実践がある。

私たちは使命感を持って、常に日々自らの仕事の崇高さに気付きながら「自らの意志で自らの運命を切り開く」ことを子どもたちのモデルとして実践していきたいと思う。

世界と歴史は、常に激動と無常を内包する。

ミッションと初心に帰る、感謝。