全体観~トータルビジョン~

物事には大きく二つの見方があるように思います。

これは自分を中心に見ている世界と、全体から観えている自分という視点です。

これは例えれば、人間でいえば自然から離れている自分か、自然の一部としての自分かという見方と同じです。もしも人間が自然の一部として考えていれば自分勝手な身勝手なことは繰り返しません。しかしもしも自然と人間が離れて、人間の一部に自然があると思えば自然は自分の思い通りにしてしまおうとするのです。

この利己的な考え方というのは、何でも自分の思い通りにしたいという欲望のことです。思い通りにしたいと思うばかり、自分の我執が固定概念に束縛されそのことから苦しみが起きてきます。その苦しみは、思い通りになっているときは満足し、思い通りにいかないときは周りに不満を向けていくのです。それを我慢しても、思い通りにしたいという欲望に呑まれているのですから結局は他人のせいにしたり言い訳ばかりになってしまうのです。他人の言うことをいつまでも素直に聴けない頑固な人もこの自分中心の考えに呑まれている人に多いように思います。

人間は我儘になってくると利己的になり、謙虚になってくると利他的になるように思います。

そしてこの利他的な考え方というのは、「全体からみたときの自分の視野が持てる」ということです。言い換えれば、物事や自分を全体の一部としてトータルで客観視することができるということです。

自分が所属している会社、その会社の業界、業界が集まった大きな経済、時代の潮流、国家の方針、アジアの眺望、世界の趨勢にいたるまで全体から観ることができれば如何に自分がその一部であり、自分が何をすることがもっとも世の中の御役に立つのかを自覚するのです。

しかしこれが自分からの視点だけになれば、自分の所属する会社や身近な人たちだけに囚われて自分の思い通りにならないことばかりをなんとかしようとして動かそうとするのです。よく考えなくてもすぐにわかるはずですが、自分が動かそうとしたって自分の身体ですらそんなにうまく動かせないのに全体を動かすなどはできるはずがありません。それにそもそも会社がある御蔭様で自分が働くことができるのですからその会社の一部である自分が何でも自分勝手にして善いわけがありません。自分勝手の自由というのは自由の本質ではないのです。

ただし、もしも全体の一部としての自分を自覚していれば全体にあわせて何が最適か、何が最善かを省みて正しい行動はとっていくことはできるのです。自然農も然り、循環も然り、真理も然り、本質も然り、理念も然り、これらはすべて全体観から和合したものです。その全体を慮り自分を周りのためにと自分から活かしていくならそれは自由自在の境地に近づいていきます。

私も日々の理念を省みて、如何に自然と一体になっているか、如何に自他一体になっているか、如何に実践しているかというように、自分中心ではなく全体中心の思考によって自らの判断基準を設けています。社會は共生と貢献で自分を役立てるのが自立だからです。

全体観がある人は、自分の実践が如何に世界に影響を与えるのかを自明しています。しかし頭でばかり考えて実践せずに、行動もしない人というのは自分中心の欲望に囚われています。頭で考えるということ自体が自然から離れている行為ですし、脳みそはいつも自分のことしか考えないようにできているのです。

その点、心はいつも全体に開いているものです。心が開いている人は、頭で考えませんから常に行動と実践を優先し、心がつながっている世界の影響力を自覚していきます。他人に迷惑をかけるということも心はすぐに知覚しますが脳みそは他人の迷惑など顧みることはありません。なぜなら脳みそは計算はできても、実践はできないからです。ある意味で心を澄ますというのは脳みそばかりを使わないという意味でしょう。

常に全体の一部である自分自身を自覚してこそはじめて所属する価値を理解するのです。人間は色々な人たちにや自然に支えられて生きていられ、その自分が全体の一部であるからこそ自分がいい加減な行動はしてはいけない、自分の生き方や働き方が所属するところから世界に向かって開いていてその波紋や波動を放っていることを忘れてはいけないと思うのです。

今の時代、自分中心の利己的な考え方が増えているのは自然から離れて暮らしているからでしょう。自然の一部として暮らしていたころはいつもみんなを家族のように親しみ、常に相手のことや周りのことを思いやり生活していくことができていたように思います。

だからといって時代のせいにするのはおかしく反って今はそれを自らで実践し取り組む時代だと念じ、自然の一部、全体の一部としての自分自身を役立てて貢献していこうと思います。本来の客観視とは冷めた見方ではなく、全体の観方のことを言うのです。

人生はトータルですから、常にトータルで観る目を養っていきたいと思います。