手塚治虫にブラック・ジャックという漫画があります。天才的な技術力で治らないと見捨てられた患者を次々に奇跡的に治していきます。その代価として莫大な治療費を請求するのですが、それだけ本気かどうかを確認して心の底から直し体を直し生き方を直すような治療法が心を打ちます。
本来、医は仁術という言葉もあるように単に技術や能力があるから助けられるものではなくその人の丸ごとのことを観察し、何が根本的な問題かを見抜き、タイミングと治療法を考えてその人自身が治癒するのをどう助けるかということの中に真心と思いやりが必要になります。病気になるというのは、必ず原因がありますから根治するには荒療治が必要なこともあるように思います。
そのブラック・ジャックの中でとても印象に残っている言葉があります。
一つ目は、「医者は人のからだはなおせても・・・ゆがんだ心の底まではなおせん」という言葉です。治療はしても、根治はできない。心の底は手が出せないということです。これは本人が素直になれないのなら、どれだけ治療を施してもどうにもならないという諦観です。仏陀も「縁なき衆生は度し難し」と言いました。御縁がなければ心まではいかないものかもしれません。
そして二つ目は、「これだけは きみもキモにめいじておきたまえ 医者は 人をなおすんじゃない 人をなおす手伝いをするだけだ なおすのは…本人なんだ 本人の気力なんだぞ!」という言葉です。これはブラックジャックでも助けられなかった師匠が死の床でブラック・ジャックに語り掛ける言葉です。本人の気力と書いて「本気」ですが、本人が本気でなければどんな病も治らないということでしょう。
最後の三つ目は、ブラック・ジャックがメスの製作を頼む職人の方の遺書の一文です。「天地神明にさからうことなかれ おごるべからず 生き死にはものの常なり 医の道はよそにありと知るべし」という言葉です。医の道は生き死にとは関係がないと言います。本来の道は、結果に対してあるのではなくその経過においてどれだけ真心を籠めたかに由ります。初心や道を忘れることがない様にという書置きを遺してこの世を去ったのです。
ブラック・ジャックには、人間の心身の病気を治癒するという大きなテーマがあります。自分と同じ苦しみを持つからこそ、同じように苦しんでいる人たちを助けたいと思うからこそ医師になったように思います。今の医者と違い、病気になれば病気だけを直して料金をもらうのではなく本質的に根源から治癒しようとすると今の時代は無免許医になってしまうのかもしれません。
昔の人たちは、医と病を分けていませんでした。
心を素直にして、体を健康にするには、自分の本心と向き合う必要があります。自分の本心を誤魔化し嘘をつき言い訳をすることから病は浸食してきますから、どれだけ素直を磨き、理想に対して日々に高めていくかは生き方と実践に顕れてきます。
子ども達のお手本とまではいかなくても、子ども達が目指す方向を間違えないように自分の間違いを早期に気づいて修正していきたいと思います。禍転じて福にしていけるように、心を素直に謙虚に御縁を尊び学び直しを続けていきたいと思います。