先日、縄文時代の竪穴式住居の遺跡を見学する機会がありました。先祖たちがどのように暮らしてきたのか、その住まいには何を大切に守って何千年も生き抜いてきたかの薫りがあちこちに遺っていました。
特にもっとも印象深かったものは、「囲炉裏」です。住居の真ん中に、炭の跡が遺り、そこで日々に火を囲み、炉を見つめては一家団欒をした様子が伝わってきます。火のぬくもりの中で、美味しい料理と会話があればそれだけで日々の暮らしは安寧であり仕合わせで豊かだったのでしょう。夜の暗闇の中に在る火にどれだけ人々は癒され続けてきたのかと感じます。
囲炉裏はその後、現代になって失われましたが客人をおもてなしする様式として発展しその究極の姿として茶室となったとききます。茶室を設けるのに、囲炉裏があるというのは本来の昔の様式を今に遺している日本の心や文化が今でも継承されているということでもあります。
動物たちは火を使いません。私たち人間は火を扱うようになり、火と共に暮らしてきたことで私たちはいのちをつないできました。炎は私たちのカラダを暖めただけではなく、その心も暖めつづけてきたから永いときを幸せに暮らせてきたとも言えます
その火を真ん中に置いて皆で囲む姿こそ、私たち人間のコミュニケーションの原型ではないかと思います。一緒に食べる、一緒に暖まる、一緒に暮らす、これらは火を囲むことで実現します。囲炉裏のもつ深淵さは、「炭を纏い火神と解け合い、心暖まる」ということの中に真理があります。
囲炉裏で一杯のお茶をいただき、ほっとする時間があるからこそ人々の暮らしは心休まるのです。和を尊ぶ先祖たちが暮らした道具の中でもっとも大切にしてきたものが囲炉裏であったのでしょう。
囲炉裏のある暮らしを通して、先祖たちの初心を伝承していきたいと思います。