左官との出会い

昨日、大分である有名な左官の親方とお会いする御縁をいただき土場工場を見学する機会がありました。そこには様々な土壁や漆喰の塗り見本のサンプル、また見たことのないような今の時代に合った商品が開発されていました。すでに40年近くこの道を進まれ、今では伝統や技術を継承するために様々な活動を行っておられました。

今はあまり土壁を塗るという機会が少なくなり、若い人たちに経験させてあげる機会が少ないと仰っていました。文化財の修復や個人の住宅のリフォームなどで土壁を塗る機会があるときは文化伝承のために学ぶ機会をつくっておられました。文化伝承は一度途切れると二度と取り返しがつきません。先人たちからの大切な技術や心を伝えるために、親方として色々と苦心なさっているのが印象的でした。

土については、かねてから御指導いただいている方もいて改めて土に興味を持つと不思議な魅力に満ちているのを発見します。こんな面白い世界があったのかと、炭も鐵も砂も土もどれも自然が産み出した至高の材料たちです。

この「左官」という名の由来には諸説あるそうですが、まず律令制度の時の官位として『官(大匠)を佐たすける』という意味があること。または砂を使うので「砂官」「沙翫」とし土を薄く塗って、向こうが透き通るような「紗(しゃ・うすぎぬ)」を作るから「紗官」の意味もあると言われています。どちらにしても、土や砂、水や鉱物、全ての素材の本質やその徳性を知り尽くしているだけではなく、様々な素材との調合によって様々な色合いや色彩、技法を盡した総合芸術でもあります。

本来、この土を塗るという仕事は遡れば縄文時代の前から行われていたものです。竪穴式住居の壁も土を見分けて塗り固めていました。その後、土器や竃などもすべて土で行われます。どの土を調達するのか、その土をどのように調合するのか、あらゆる素材を知っているからこそその土を産み出すことができるとも言えます。日本の伝統的な和の住空間を考えるとき、そこには必ず左官がいます。今では左官職人が減ってきて伝統が途切れそうになってきているといいますが、和の住空間の需要がそれだけ失われてきているということでもあります。

昨日の御話でとても印象に遺ったのは、「土に近づく」ことの大切さです。現代は、すぐに壁をクロスを貼って部屋をつくりますが土だとすぐに何か物があたったりするとボロボロと壊れていきます。クロスはそれがないから安心といいますが、実際はガラスのように割れるものであり、土は壊れるものです。そこから大切に扱うことを学び、ものを大事に接する素養が自然に身に着きます。自然素材というものは脆いものですがその分、手入れを怠らず丁寧に修理していけば何十年何百年と維持できるものばかりです。

親方は土のワークショップと称し、子ども達が様々な土に触れる機会をつくっています。土に近づくような生き方をしようと、新たな作品を産み出し続けるだけではなくその生き方を通して日本人としての本質と文化、その価値を新たに刷新するために初心の伝承を行っておられました。

今回の聴福庵の復古創新ではじめに出会ったのがこの左官という志事です。どのように今の時代に合わせて伝統の革新をするか、私自身もこの場を見極め本質をさらに深め、よくよく自然から学び直しつつ、生き方と働き方の一致を実践していきたいと思います。