先日、左官の親方から「土が馴染む」という話をお聴きしました。今の時代は納期が短く、すぐに結果を求めてものづくりをするから時間をかけて馴染むということをしなくなったと仰っていました。
そもそも馴染むというものは、時間をかけることで行われるものです。新しかったものが古くなるというのは、単に経年劣化ではなく経年変化していくということです。それは人間関係でも同じく、幼馴染や昔馴染みというように御互いが調和して解け合い親しくなるということです。
昔の道具たちや古材の魅力はこの「馴染む」ということによります。先ほどの土であれば使っているうちに次第にひび割れたり壊れたりします。しかしそれを修理修繕しながら大切に親しんでいけばそのうちに馴染んでくるのです。
この馴染むというのは、古いということであり、この古いということは安心するということです。親しみが深くなればなるほどに心の安心感は深くなっていきます。これは住居や道具たちとも同じで、馴染むほどに親しくなればそれはもうパートナーです。そのパートナーたちと一緒に暮らしていけるということが、どれだけ心に安心を与えるかといえば家族と同じほどに心を許し開いていきます。
自分が居心地が善く安心するのは、古いものに囲まれているからです。新しいものばかりのワクワク感もいいのですが、古いものが持つ安心感は格別なものです。今、復古創新に取り組んでからまだ日は浅いのですが古いものたちが馴染み合う姿に歴史の重みと有難みを深く味わっています。
私たちの先祖たちが暮らしてきた生き方に、自ら馴染み近づいてさらにもう一歩踏み込んで伝統を革新してみたいと思います。