天道に従い人道を行う

以前、伊勢神宮の式年遷宮のことを書きましたがこの仕組みがとても価値があることを改めて古民家の再生を深めていて感じます。今の平均的な建物は、ほとんどが新築物件であり家が傷めばすぐに建て替えることで話が進んでいきます。地震や災害に強いからと鉄筋コンクリートでつくられ、モルタルなどで固めたものはそもそも解体して組み直すようにはつくられていません。

しかし昔の建物は、貴重な材料を用いていたため古民家などもそうですが解体して移築するという方法がとられていました。今の時代は、わざわざ古いものを移築する方が大変だと思われがちですが本来は移築していることが当たり前だったのです。

そして移築するとき解体してどこが傷んでいるのかそして先人の職人たちがどのように建てたのかをみて後人たちは学び直しをしていました。建物を直し、改めて今の時代の技術を観直す、そういう仕組みを通してかつての文化を大切に継承してきたとも言えます。毎回新築を建てては、それを解体してゴミのように捨てて新しいものにしていたら文化の継承などは行われることはありません。

また現在、地震や震災があるとすぐに建物を新築で強いものを建てるようにすすめ、それまで崩れた古民家などをまるで価値がない様に扱われていきます。しかし先人たちは長い年月、耐久できるものをつくったのであって目先の地震だけを乗り切れるものなどをつくることはありませんでした。

なんども地震があることは当たり前ですから敢えて崩れるように脆く弱くつくっていて壊れたらまた修理するように考えてつくられました。そうやってなんどでも組み直して立て直すことで何百年ももつ家を建てたのです。弱く脆いのは自然に逆らわないという方法を選んでいたのです。

しかし今は、一回壊れたら全部壊して建て直すしかありません。これはまさに最近、出回っている安い電化製品などもそうですが修理するよりは買い直した方が安いし早いということでそもそも長く使えるものとして作り手もつくってはいません。ほとんどがものの2~3年でどうせ古くなるからと、すぐに新しいものを買い替えるように勧めてきます。

昔の家や道具は骨董をはじめ何十年も、もしくは数百年の前のものでも今でも手入れすれば遜色なく使えるものばかりがあります。キチンと人が手入れして掃除を怠らず、大切に使っていれば味わい深く輝き出して今でも美しい道具として沢山暮らしの御役にたってくれます。

先人たちの家や道具に接する姿はとても謙虚なものです。それは今の時代のように自然を征服するのではなく、自然を尊敬するということを優先してからでしょう。敢えて弱く脆いものをつくるのは、自然の偉大さを自覚するからです。自然の方が壮大で人間など及ばない、だからこそ人間の方が自然に従い自然に沿って暮らしていくのだから壊されてしまうことは当然の理だと丸ごと受け容れているのです。

その上で自分たちが怠ってはならないものが何かをよくよく自覚自認して、何度も自分たちの方の姿勢を謙虚に直していけるような仕組みになっている。あの伊勢神宮の式年遷宮もまた自然に沿う生き方するという姿を実践で示す神職たち、その土地の生き方の伝承なのです。

初心伝承とはこれらの謙虚さに目覚めさせることです。子ども達のためにも引き続き天道に従い人道を行うことの大切さを実践で示して譲り遺していきたいと思います。