和紙の文化

昨日は行灯の和紙の張り替えを行いました。紙・裂・糊を使って繊細な木に和紙を張り付けていくのですが慣れない作業でとても集中力を使いました。昔の人たちはこれらのことを身近でいつもやっていたと思うと、丁寧な仕事の大切さを道具から学び直していたのかもしれません。

和紙を使うことは、採光のゆらぎがあり火を灯せば安らぎのあかりになります。プラスチックやガラスにはない、和紙を通った光は部屋全体を癒し夜の闇をより鮮明に映し出します。また西洋のように上から吊った電灯を照らすのではなく、下に置いた行灯を灯すと空間が活き活きと甦ります。日本家屋の贅沢さと豊かさは、この下から全体を包むように照らしたあかりが漆喰などの土壁をはじめ自然の木材や障子、襖の和紙、そして床の間などの奥行のある多重層の空間に御蔭(光と影の調和)をつくりだします。

日本の家屋の伝統美が豊かで美しいのは、先祖から今にいたるまで長い年月日本文化を育て上げて今のカタチにまで美を昇華してきた精神が宿っています。日本家屋の中で夜の闇の美しさに魅了されると、夜が来るのが待ち遠しく仕合わせで堪りません。聴福庵の魅力はこの夜の闇の中の穏かな火が、一期一会の日常の内省に最高の演出を与えてくれます。

話を行灯の和紙に戻せば、和紙はこの日本の夏の高温多湿、冬の乾燥にあわせて伸縮自在に水分を調節して安定する働きを持っています。ログハウスに住んでみて分かったのですが、一年で多湿と乾燥を極端に繰り返す日本の風土では木だと常に膨張縮小を繰り返します。玄関の扉などは、夏と冬で隙間ができたり、場合によっては閉まらなくなるので扉を付け替えたりと面倒なことが発生します。

しかしこの和紙を使えば障子や襖などもそうですが、まったく多湿乾燥の影響なく自然に順応しています。この和紙というものは、日本建築には切っても切れない関係です。

今はあまり見かけなくなりましたがかつては表具師という方々がいて床の間の掛軸をはじめあらゆる和紙を用いた伝統文化を発展させ日本文化として歴史を紡いでくれていました。日本人にとってこの和紙は欠かせない風土の智慧の結晶であり、西洋の単なるペーパーではなく日本人の精神が宿っている和紙なのです。

100年以上前の行灯の和紙の修繕をしながらかつての生活文化に思いを馳せているととても豊かな自然に恵まれた日本風土の美しさを感じます。

引き続き子ども達に日本の文化を繋いでいくためにも、古民家と対話しながら日本文化の砥石に心技体を磨いてみたいと思います。