先日、古民家甦生で聴福庵の囲炉裏の間に入っているくにさき七島藺の畳の生産者、淵野聡さんにお会いするご縁がありました。この『七島藺(しちとうい)』は、大分県の国東地方だけで生産されているカヤツリグサ科という植物です。
七島藺は350年の歴史があり、琉球畳は本来、この七島藺を使ったものを言っていました。かつては国東で2万戸の農家が生産していた七島藺も今ではその生産ができる農家が9戸のみになっています。畳表を製作しているところも見せていただきましたが、一日わずか2畳分しかできない手間暇をかけて作られているものです。
淵野さんは、この七島藺に魅せらせそれまでに勤めていた高速道路の仕事を辞め、この七島藺の生産と製造をはじめられたといいます。よき人、よき師匠に巡り合い、いい畳をつくりオリンピックの柔道畳に採用されることを目下の目標にし精進しておられました。
世の中では単に脱サラして転職したとか、いろいろと評する人がいますがこの方は道に入るといって導かれるままに天職に移ってこられた方です。不思議なものですが、本人が選んでいるようにも見えますが、実際は七島藺が人を選んでいるようにも見えます。これは出会いと同じで、いのちといのちの廻り合いは時や場所を超えて縁尋奇妙に結ばれています。何かが失われそうなとき、それを守る人が出てくる、諦めそうなとき、助けてくださる存在がでてくる、道の伝道に伝承者が顕れるように、ご縁の不思議さを感じます。お互いに我慾ではなく、真摯に真心を籠めて天命に従うとき、人は本物と出会うのでしょう。
また今回はちょうど苗を育てている時期だったので、水田の中で新芽を出している七島藺を拝見することもできました。これは真菰竹などと同じで、種ではなく苗を越冬させその苗から翌年のものを育てていくものです。
こうやって大切に株分けされたものを長い年月をかけて育てて農産物を大切に加工して生産していくことに大きな豊かさを感じます。自然と共に暮らし、自然からいただいたものを大切に自分たちの暮らしの中に取り入れていく。当たり前のことですが。これができる幸せは、単にお金で買えるものとは一線を画します。
豊かな暮らしというものは、先祖から大事に譲られてきた伝道をそのままに私たちが子孫へつなぎ紡ぐ伝承をするときに感じられるものかもしれません。
引き続き、未来の子どもたちの為にも日本の民家甦生を味わいながら豊かな暮らしを再生していきたいと思います。