場の醸成

伝統文化の伝承について考えるとき、私は幼少期の体験がとても大切な意味を持つように思います。どのような環境下で育ったか、それが文化の伝承には必要だと感じるからです。

例えば、私が実践する自然農であっても自然養鶏であっても自然に沿ってそのものの特性に合わせて環境を用意していきます。繰り返し年数を積み重ねていく中で、確かな文化が醸成されていきます。生まれたときから、本来あるべき自然の環境があってそのものは遺伝子的にも覚醒して先祖からの智慧を伝承します。

しかし「刷り込み」の例えもあるように、生まれたての雛がコンクリートの風も通らない部屋で、草もなく虫もなく、調合された飼料だけを人間から与えられればそういうものだを信じ込みます。幼少期にそういう環境下を過ごせば大人になっても草も虫も怖がり、人間から与えられたものしか食べなくなるものです。通常なら行う大好きな土浴びもせず、風に羽を靡かせて風を身体に通すこともしなくなります。病気になっても抗生物質を与えられ本来のいのちが充実することはありません。

そう考えてみると、私たちは知識とは別のものがあり、智慧ともいうような先祖からいただいている進化の過程で得た財産を受け継いでいるともいえます。このような体になったのも、このような性格になっているのもまた、そこには先祖が積み重ねてきた経験の集積によって得られたとも言えます。そしてそれはヨーロッパであればヨーロッパに、アフリカであればアフリカに、アラスカであればアラスカに、その環境下によって文化は息づいているのです。

その環境を変えてしまうということは、その環境下で得た文化を否定するということです。確かに便利な世の中になり、どの場所でもどの人種でも、都市のようなものを創り、環境をすべて同一にし人間にとって快適にしていきましたが同時に文化は受け継がれなくなってきました。

伝承文化というのは、決して環境から切り離されるものではなくむしろ環境によって醸成され育まれ続けていくものです。だからこそ、子どもたちにどのような環境を譲り遺していくのか、そしてその環境下で得られた智慧や道具たちをどのように伝承に活かしていくかを私たちは今の時代の文化の担い手としてよく考えなければならないように思います。

日本の気候風土に合った暮らしと生活は、文化を育て文化を継承させていきます。

引き続き、教えないことによって文化を伝道し、子どもたちの直観によって文化を高めていくような場を醸成していきたいと思います。