現在、おくどさんのある厨房の天井に時代ものの煤竹を磨き直して設置しています。最近の家屋ではほとんど見かけなくなりましたが、本来この煤竹は私たちの先祖が編み出した偉大な智慧の一つです。
普通の竹は、そのままにしていればすぐに乾燥して割れて朽ちていきますが煤竹にすると百年から数百年、生き続けて形を維持します。煤竹についてはウィキペディアにはこう紹介されます。
「煤竹(すすだけ)とは、古い藁葺き屋根民家の屋根裏や天井からとれる竹のこと。100年から200年以上という永い年月をかけ、囲炉裏の煙で燻されて自然についた独特の茶褐色や飴色に変色しているのが特徴。煙が直接当たっている部分は色濃く変色しているが、縄などが巻かれて直接煙が当たらなかった部分は変色が薄く、ゆえに1本の竹に濃淡が出て美しい表情をもつ。昨今は煤竹そのものの数が希少傾向にあり、価格は1本で数十万円以上することも普通である。」
今回の煤竹は、富山県のある藁葺きの数百年前の古民家から譲っていただいたものです。この飴色になった煤竹は、囲炉裏を中心に代々の家族が食卓を囲み、そこで様々に暮らす人々の物語の様子を見守りながら生きてきたものです。
私たちよりも数倍以上長く存在する煤竹の光や模様からは、改めて息づいてきた時代を感じさせその煤竹を天井に設えれば不思議な空間を演出してくれます。
この煤竹は、他には工芸品に形を変えて暮らしの道具にもなります。私が常備している煤竹の箸や、聴福庵に置いてある炭斗や花かごなども煤竹が加工されたものです。虫にも食べられず丈夫で、そしてうっとりする美しい光を放ち何よりも長持ちします。
囲炉裏を使い燻し続けた先人の智慧は、とても偉大で高温多湿の厳しい環境下にあった日本の民家はこの「燻す」ことで長持ちするのです。風を通すため隙間の多い日本家屋は、敢えて外と中の境界を創らずに自然のままに建てられます。だから虫が入ってくるし、またカビなども発生しやすいので燻すことをやめればすぐに傷んでしまうのです。
しかしこの煤竹のように囲炉裏の火で燻していけば何年も、また何百年も家が酸化せずにカビの増殖を防ぎ、防虫効果、さらに病原菌からも防護できます。まさに風土に沿った偉大な仕組みがこの煤竹に適応されているのです。
煤竹の甦生は、日本の智慧を甦生することでもあり、時代感のあるこの煤竹がおくどさんの部屋の天井にあることで一気に古民家の風合いがよくなります。長く共に暮らしてきたパートナーがまた新たに私たちの食卓を見守ってくれるという安心感。
子どもたちがいつの日かこのおくどさんで食事をするときもまたこの煤竹が見守ってくれると思うと有難い思いがします。古民家が少なくなってきた現代はこの囲炉裏で燻された時代感のある懐かしい煤竹を見かけることも少なくなりました。
引き続き子どもたちに先祖の智慧が途切れないように、一つ一つ丁寧に復古創新していきたいと思います。