先日、伝統工芸の職人の方々のお話をお聴きする中で考えることがありました。それは「伝える」ということの意味についてです。
一般的にいくら良いものだとわかっていてもそれを伝える力がなければ相手には伝わりません。それに伝統だと、師弟関係があったにせよそれがお互いに伝承できなければそれはのちに遺ってきません。この「伝」の意味はまさに今、私たちが課題になっているところです。
もともとこの伝の旧字体は「傳」です。 「人」+「專」の形声文字から成り立ちます。これは 「横から見た人の象形」と「糸巻き の象形」と「右手の象形」を表し、 その糸巻きをぐるぐる回しながら人から人へと何かを「つたえる」という意味を指します。
この「伝える」という取り組みは、人類にとってとても大きな意義があることです。長い時間をかけて人類を存続させ、子孫への繁栄を発展を約束するためにも「伝える」ことはその世代を経験して達したものの使命になっているようにも思います。
しかしこれが伝わらなくなれば、自ずからそこでそれは消滅するのです。如何に伝えるということが大切か、如何に伝わるということが大事かということです。そしてそれがいつまでも永遠につながっていくこと、それを伝統というのでしょう。
この伝統技術は、単に文字や言葉で教えて伝わるものではありません。伝わるには、真摯に伝える側が伝わる側に伝わるように真心を籠めて伝えなければなりません。そして伝えられる側も、真心を籠めて素直に耳を傾け、心から伝わるように全身全霊で受け取らなければなりません。
以心伝心とも言いますが、心が伝わりあうことではじめて伝承はなるからです。自分のことばかりを考える人ではこれはならず、お互いに思いやりと真心をもって心で一つのことに結び合うときその糸は連綿といつまでも続いていくようにも思います。
伝統を守るというのは、何をもって伝統を守るというのか、今一度考え直す必要があるように私は思います。
簡単には伝わらないからこそ、伝わったときの仕合せは感謝に満ちるものです。心がつながるとき、大事な理念が伝わりつながっていくとき、心は一つになります。心が一つになれば、その伝統は結ばれいつまでも時代を超えて生き続けていくのです。
改めて子どもたちの未来に今の自分が何を伝えていくことができるだろうか、もう一度自問自答し学び直していきたいと思います。