瓦葺きを深めている中で、そもそも屋根の原点とは何かについて考えてみました。そもそも現存する中で最初の人工的な建物には竪穴式住居があります。最も古い竪穴式住居は鹿児島県の上野原遺跡で見つかった約9500年前のものが最古のものです。
以前、私も上野原遺跡を訪問し見学したことがありましたが火を中心に暮らしをし、桜島が見渡せる丘にあり、身近には海と山、豊富な魚と動物、また木の実を採取できる場があり、そこに定住するための住まいとして竪穴式住居をつくったといいます。この竪穴式住居はその後、平安時代にはほとんどなくなり、室町時代の東北地方を最後に完全に造られなくなったといいます。
この竪穴式住居を簡単に説明すると、土地は緩やかな勾配のある場所を選び、そこから土を少し掘り込み平地よりも下げたところに土間を設け、中心には囲炉裏、天井には樹皮や藁を被せ、三角形になったテントのような建物です。祭祀できる小高い丘を中心に邑を形成し、その周りにみんなで助け合い住んでいました。
この住宅のつくりには縄文人のころからの住まいの智慧が凝縮されており、これが今の日本家屋の原点とも言えます。つまりは下が土、そして天井には通気口をあけ、家屋の真ん中に囲炉裏の火を熾し続ける。常に天地の間に流れる水と風を通気させ、その中心に火を配置することにより換気を促し、四季折々の絶妙な調湿も果たし、全体を燻すことで外からの病害虫を防御し、もっとも人間が末永く自然環境と共生する仕組みを住まいに導入していたとも言えます。この住まいの源流があって、その後、さらなる定住の長期間の住まいを持たせる工夫として瓦なども発達したのではないかと私は思います。
現在のように、土から離れ密閉住宅をつくり、冷暖房によって調湿をし、ガスの火や水道の水、化学物質に囲まれた住宅が健康に良いはずはなく、不自然の中での暮らしや住まいが人体と人生に影響を与えていることが大きいとも言えます。
短期的に活動するような住まいであればいいのですが、定住するとなればもっとも優先したのは「生命の保持」であり、鋭敏な自然感覚の維持であり、健康で元気に安心して暮らせるものを「住まい」としたはずです。
本来の人類の智慧はとてもシンプルで、健康や自然、生命生活が安心する基盤があって暮らしがあることを自覚していましたから当然住まいもまたその理に適ったものを建てたはずです。
今のように科学が進んで建築が発展したかのように思われていますが、人類本来の住まいからほど遠くなった近代の建物は果たして先祖の智慧が凝縮された最先端のものであるのかと疑問に思います。
そもそも火を中心に囲炉裏の生活が失われてから、同時に屋根や瓦についての理解も減退してきたように思います。土や火、水や風、闇や光といったものを感じない建物は、人間本来の五感を消失させていくようにも思います。縄文人は天地を逆さに観ていたからこそ、屋の上に屋根があったのではないかと私は思うのです。自然と共に暮らすということは生命維持の根幹です。
これから人工知能による課題や自然災害が猛威をふるってくる時代に入るに際し、自然の五感を磨くことは人類存続の上でとても重要なことであると私は思います。引き続き、先人の智慧を甦生させつつ子どもたちに日本人の初心を伝承していきたいと思います。