バングラディッシュにグラミン銀行というものがあります。これはチッタゴン大学教授であったムハマド・ユヌス氏が銀行サービスの提供を農村の貧困者に拡大し、融資システムを構築するための可能性について調査プロジェクトを立ち上げからはじまったものです。
この「グラミン」という言葉は「村(gram)」という単語に由来しておりマイクロクレジットと呼ばれる貧困層を対象にした比較的低金利の無担保融資を主に農村部を中心に行っています。今では銀行を主体として、インフラ・通信・エネルギーなど、多分野でグラミンファミリーと呼ばれ各地でソーシャルビジネスを展開しています。
ムハマド・ユヌス氏は、貧困層の問題はチャンスが与えられないことが本質だとしその機会を与えることが貧困問題を解決する鍵だとしました。一部の富裕層のために貧困層のチャンスを奪うことになっている資本主義経済の弱点を解決しようと挑戦しておられます。そのユヌス氏はこう言います。
「すべての人間には利己的な面と、無私で献身的な面がある。私たちは利己的な部分だけに基づいてビジネスの世界を作った。無私の部分も市場に持ち込めば、資本主義は完成する。」
人間の併せ持つ欲と徳、その欲のみで経済を動かし続けたことに問題がある。本来は道徳といったものも経済に適い一致するのなら本来の資本主義は完成するはずだと信じたのです。
この経済と道徳の一致を最初に説いたのは、私が何よりも尊敬し判断の基にしている「二宮尊徳」です。二宮尊徳は「道徳なき経済は、犯罪であり、経済なき道徳は寝言である。」と言いました。つまり、欲だけで走る経済はまるで犯罪そのものではないか、そして本来の経世済民という意味での道徳が失われているのならそれは単なる絵空事あって復興の足しにもなりはしないということでしょう。
二宮尊徳も「村(gram)」を中心に、貧困の解決に取り組み復興を実現していきました。二宮尊徳は、相互扶助金融制度としての『五常講』という仕組みをつくり信頼を基盤に経済と道徳の一致を行いました。具体的には人倫五常の道によって積立・貸借をしていきました。そして「五常講真木手段金帳」という帳簿をつくりそれぞれに薪の節約、鍋炭払い、夜遊びの中止など、工夫をこらし、連帯して生活を向上するように指導したのです。
この五常は「仁」「義」「礼」「智」「信」の5つの徳目のことです。これを説明すると、まず仁は「金に余裕のある人がこの「講」に貸し出し基金を寄せる。」そして義は「この講から借りる人は約束を守って確実に返済する。」礼では「借りた人は貸してくれた人、支援者に感謝する。」そして智は「借りた人は確実かつ1日でも早く返済できるように努力工夫する。」最後に信は「金の貸し借りには相互の信頼関係を築いていく」この5つの徳目を守ることを条件に「五常講貸金」という相互扶助の金融制度を発明したのです。
先ほどのグラミン銀行のようなものをすでに日本では二宮尊徳が実践し、600以上の村々を復興していたのです。二宮尊徳が目指していた社會は、平和で人々が思いやり優しく手をつなぎあって暮らしていこうとしたことがこの発明からも観えてきます。孔子が目指した理想を二宮尊徳は具体的な方法によって導こうとしたのでしょう。高弟だった富田高慶報徳記にはこう書かれています。
「天地万物にはそれぞれ固有の徳が備わっていることを認識していた尊徳は、人間社会は天地万物の徳が相和することによって成り立ち、自己が生存できるのもそのおかげであると考えた。そのことに感謝の念を持ち、自己の徳を発揮するとともに、他者の徳も見出し、それを引き出すように努め、万人の幸福と社会・国家の繁栄に貢献すること、これが尊徳の考える『報徳の道』である」
天地万物の徳を引き出すことに経済の仕組みを用いる。まさに我が意を得たりの境地です。私が目指している理想もまた、この一点にこそあります。保育に懸けるのもまた天与の人間の徳を見守るためなのです。
まさに一円観、一円融合はこの一致する一和にあります。子どもたちに譲る貯金が底をつかないように天の蔵に積み足していく徳のお金を譲り遺していけるように残りの人生を懸けていきたいと思います。