今年も聴福庵の床の間には、ご先祖様方が無事に来庵していただけるように準備をして静かに待っています。具体的には、菊の花や鬼灯(ほおずき)などをしつらえ、おもてなししています。
このお盆は以前にも紹介しましたが、「盂蘭盆会(うらぼんえ)」といい故人の魂があの世からこの世に戻ってこられる期間のことをいいます。この期間に亡くなった家族やご先祖様の精霊を迎え、生きている親族と共にひとときを過ごし、またあの世へと帰っていくという日本古来の祖霊信仰と仏教とが繋がって続いている伝統行事のことです。
今回は鬼灯をたくさん用意し、玄関から庵内で寛げるように配置しています。この鬼灯は迎え火の際の提灯に見立てたものです。小さいころ、私も迎え火をもってお墓に行きそのまま帰宅してご先祖様をご案内したことを覚えています。子ども心に蝋燭の火が揺れて少し怖くて、ただ先祖を身近に感じて少し温かい気持ちになったことを覚えています。
このように道しるべになってご先祖様を迎えにいくところに、自分もいつかこのように子孫たちが迎えてくれるのだろうという安心感があります。地上の暮らしが土に還ることで墓になります。墓で暮らしている人たちが、この時だけ地上で子孫たちと共に和合して幸福を味わう時間はとても豊かです。
むかしの人たちは、感謝の機会を設けることで自分たちがこの世で無事に生きていける有難さや御蔭様をいつも感じていたように思います。物が少なかった時代だとしても、心はとても豊かだったように思います。
この鬼灯ひとつの捉え方でも自然界で旬である鬼灯を提灯に見立てたり、仏さまが空洞になっている場所に身を宿すと信じられたり、農作物が不作の時など、お供えものに彩りを与えていたと聞くだけでも心の豊かさを感じます。
豊かさは常に心の中にあります。
豊かな暮らしを味わいながら、感謝の日々を歩んでいきたいと思います。