2年前に自然農の田んぼの土を500キロ聴福庵に運びこみ、みんなで土を塗り固めて自作した「おくどさん」の仕上げを伝統技術を持つ左官職人さんたちに来ていただき行いました。
今回、依頼した左官仕上げには「漆喰磨き」というものをお願いしました。これは以前、京都の角屋にあるおくどさんに一目ぼれし、どうやったらあのような白銀に黒艶がでるような風格が出るのだろかと感じたことからです。それを深めて調べているうちに現地の方から、これは左官の漆喰磨きという仕上げを行ったこと、また日々に使う人たちが大切に手入れをして拭いて磨いているから輝きを増したことなどをお聴きしました。
「洗練されて磨くと光る」というのは、もっとも志すところであり、伝統技術の持つ神妙な真理でもありますからそれを学び直したいと一念発起し今回の「おくどさん」を創ることにしたのです。
左官仕上げを依頼した「漆喰磨き」は漆喰を鏝で磨き続け、鏡面に仕上げる工法の事です。全国の文化財などで見かけることがありますがこの漆喰磨きの技法は秘伝としているところが多いらしく次第にその技術が継承されなくなってきているといいます。
おくどさんの本来の活用の意味も大切ですが、左官の先人たちが命がけで編み出した日本独特の磨き上げの技術を子どもたちに遺して譲りたいとも願い、全国から有名な伝統左官職人さんたちに来ていただき「漆喰磨き」を行ったのです。
実際に拝見すると、凄まじい集中力と緊張感で約2ミリほど塗ったものを0.03ミリ以下になるまで磨き上げ光りはじめていきました。最後は、素手で丁寧に何十回も手擦りをしておられました。おくどさんを綺麗に撫でるように仕上げていく様子に、まるで親が子どもを撫育するような境地を実感することができました。
左官職人は特殊な鏝をたくさん用いて作業をします。今回もはじめて見る鏝を使い、丁寧にプロセスや場所に合わせて使い分けていました。しかし最後にその鏝を手放し、手を鏝にしている姿を観て左官の原型を実感しました。
みんなこの「手」からはじまるのだと、つまり手作業、手入れ、というこの「手」にこそ不思議な力が宿っているのを感じたのです。このパソコンのキーボードを打つのも手です。私たちはこの「手」に思いを籠めて、手を用いてその思いを実現していきます。
手には心があり、心は手から伝わってそのものに魂を吹き込みます。
伝統や伝承もまたこの「手」から行われています。手塩にかけて育てるという言い方や、手法や手段、お手本という言葉もあります。この手による磨きは、いのちの磨きであり「いのちとの対話」なのです。
これから行おうとするおくどさんの「手入れ」の神髄に触れた一日になりました。左官職人さんの真心の籠った手仕事に心から感謝しています。
これからしっかりと手入れを行い、磨きに磨きをかけて子どもたちの心にその光が届いていくようにいのちとの対話、そして生き方の手入れをしていきたいと思います。