世がととのう

私たちは日々の暮らしの中で様々な出来事やご縁に出会います。その中で多くの刺激を受けて心や感情は波打ちます。それを波長ともいいますが、私たちは空気で呼吸をするように心も感情も日々の風を受けて海のように波立つのです。

ひとたび波立てば、また穏やかな状態に原点回帰するために私たちは心と感情を整えていきます。整うことで調和がうまれ、元の状態に戻るときに私たちはその出来事で得た思い出や感覚を整理していくことができているのです。

つまり「整える」というのは、平常心に回帰するということでもあります。これは、乱れてもすぐに元の落ち着いた状態に戻っていくということです。この平常心(びょうどうしん)とは、日々の丁寧な暮らしをしているままの真心でいることだと私は思います。

日本人の暮らしは、常に丁寧で、一つ一つの日々の小さなことも大切にしてきました。スピード社會で、時間がないという合言葉のような日々を送れば次第に小さなことが疎かになります。

例えば、身体や心を労わることや、当たり前のことに感謝することや、ほんの小さくて偉大な発見を味わうことを忘れたり、偉大な見守りをいただいていることに気づかなかったり、あらゆるものが忙しさの中で忘れ去られていきます。

そういう日々の生活を繰り返したら、本来の暮らしも乱れていき心身が疲れてしまうものです。

禅語に「平常心是道」という言葉があります。

道=平常心であるということです。日々の暮らしの小さな実践の中にこそ道があるということかもしれません。

日本の民家を甦生させるなかで、暮らしの中にあらゆる整うための智慧や仕組みを感じます。掃除や手入れ、磨くこと。そして片付けることや畳むこと、他にも室礼や行事などもまた「整える」実践になっています。

日々の暮らしを整える人は、平常心を歩むことができるように思います。一度しかない人生、膨大な量を欲にまかせてかき集める日々を少し休ませ、落ち着いて穏やかに整う暮らしを過ごすことで真の豊かさに気づけます。

自分を整える人は、地球のことも整えます。

環境問題は人間の問題です。人間一人ひとりが、しっかりと日々に整えていくことで世の中もまたととのいます。平和は、この日々の暮らしの中にこそあり道もまたそこにあります。

子どもたちが、健やかで真の豊かさを生きられる時代になるように今、私ができることで伝承していきたいと思います。