自然に学ぶ心

先日、あることから久しぶりに星野道夫さんの文章を読み返す機会がありました。美しい写真を撮るだけではなく、美しい生き方に憧れよく自然から人間を観察された文章は心に響くものがあります。

その中で、ちょうど今の時期に相応しい星野道夫さんの言葉を見つけました。

「人間の気持ちとは可笑しいものですね。どうしようもなく些細な日常に左右されている一方で、風の感触や初夏の気配で、こんなにも豊かになれるのですから。人の心は、深くて、そして不思議なほど浅いのだと思います。」

人の心は深くて、そして同時に不思議なほどに浅いというものに共感します。

人間には心とは別に感情があります。感情は常に鋭敏に自然の変化の真っただ中にありながら常に感応を已みません。小さな変化、生きている実感ともいえる感動を感得し続けているのです。つい目先のことに囚われて我執や固執してしまうのもまた、この感情が動いているからでもあります。

しかし同時に心は、深い海の底のさらにその奥のような深淵の世界が広がっています。海の上で風に揺れる波とは異なり、海底の深いところの海は静かで闇く穏やかなままです。

心は常に落ち着いていて丁寧です。人間はそう考えてみるといつも同時に2つの目を通してこの世を観ていることになります。感情の目と心の目です。浅い目と深い目とも言ってもいいかもしれません。

そこには自分からしか見えない狭い自己中心的な視野と全体や宇宙のような広大無辺の無の視野があります。まさに一物一心全体の自他一体の境地です。

日々に感情は波打っても、心はとても落ち着いて静かです。心の静けさに感情を合わせていくことで人は驚くこと豊かになれるのです。

私の言う暮らしフルネス™には、この暮らし方の意義もあります。日々の忙しさに追われてしまう仕組みが走っている現代社会において、如何に真の豊かさを持てるかは人類の課題になってきています。人工知能が発達すればするほどに、人はなんのために生まれてきたのかという課題に正面から向き合うことになります。

その時、人はどちらを選ぶか。

私は心の世界を大切にしている人が、感情だけではなく自他一体の境地で選択していってほしいと願っています。子どもたちに大切な人類の節目に、本来の自然からの英知と受け継がれてきた智慧を伝承していきたいと思います。