日本にある民俗芸能の一つに「獅子舞」というものがあります。これは日本ではもっとも多い民俗芸能の一つです。この民俗芸能は、世界大百科事典にはこうあります。
「民族それぞれの社会生活の中で,住民みずからが演者となって伝承してきたきわめて地域性の濃い演劇,舞踊,音楽の類をいう。いずれも,地域の生活・風土と結びついて伝承されるものだけに郷土色が濃く,そのため日本では郷土芸能,郷土芸術などと呼ばれる。この種の芸能は世界のどの民族にも存在するが,欧米のような,墨守よりも創造に情熱をかける国々では,いわゆるフォークダンスのようなものも自由に編作・創作の手が加えられて,昔ながらの伝統を残すものが少なくなっている」
民俗芸能は、たくさんの種類がありますが私たちの郷土にはこの獅子舞がまだ伝承されて実施されています。この獅子舞の由来はインド由来という説もありますが最古の記録としては、1世紀ごろの中国に始まったといいます。その漢書には「象人若今戯魚蝦師子者也」(象人は、今の魚蝦・獅子を戯するがごとき者也)と記されます。
それが日本に伝来したのが奈良時代だといいます。そして全国に広がったのは、16世紀のころに伊勢で正月に飢饉や疫病除けに舞われるようになりました。それが伊勢詣でや伊勢講などの発展と合わせて江戸に広がり、悪魔祓いや縁起物、また祝い事や祭礼で舞われることから全国的に広がったといわれます。
かつて山伏たちも権現舞といって、正月とか家の祝事などに各戸を巡って、家内繁盛、五穀豊穣、災厄鎮送を祈祷する舞を演じたそうです。私たちの地域にも、法螺貝を頭にのせて邪気を祓うという行事もあります。
獅子舞でも、獅子は疫病除けの効果があるとして邪気を食べてもらうために頭を噛んでもらったらいいと子どものころに何回も噛んでもらいました。小さな子どもたちがわんわん泣いていたのを覚えています。この獅子が噛むのは、「かみつく」が「神が着く」ということもあり縁起が担がれていました。
地域によってその舞の種類も音楽の種類も異なります。私の郷里ではこの獅子舞の音色を聴くと何か心に懐かしいものを感じます。すぐに思い出すこともでき、舞の様子が脳裏にすぐに浮かびます。
長い時間をかけて伝承し継承してきた民族芸能は、私の先祖たちがみんな同じように幼いころからその郷土の風土や風習の一端を担ってきたものです。故郷とのつながりは、私達の先祖が繰り返されてきた祈りや願いと結ばれています。
現代は、もう若い人が田舎にいなくなり地方のこういう民俗芸能を伝承する機会も失われてきました。意味があって受け継がれてきたものも、今では意味がなくなっているようにもなっています。
子どもたちが安心して風土の智慧を獲得できるように、今の時代に甦生させて伝承の恩恵をつないでいきたいと思います。