この時期は、イチョウの樹が銀杏の実を大量に落として独特の香りに包まれます。古民家甦生をした藁ぶき家の庭にはご神木のような巨樹があります。圧倒的な存在感で、いつも道を通り過ぎるときにそのイチョウの木の存在を感じていました。
もともとこのイチョウは、日本では親しみ深く街路樹であったり、神社やお寺、地域や学校のシンボルツリーになって日本全国の地域地域に存在しています。しかしこのイチョウは本来、自生しているものなどなくこれらのものはすべて人為的に植えられたものしかありません。絶滅危惧種に登録されている古代樹であり、2億年の時を経て今私たちの前にいる生きた化石だといわれているものです。
現在は世界でも街路樹などで見かけることもありますが、最初は中国に遺ったたった一種類の木が日本に伝来し、そこから世界に広がっていったものです。江戸時代にEngelbert Kaempferという人が長崎からヨーロッパに持ち帰るまでは中国、朝鮮半島、日本でしか存在しなかった「極東の奇木」といわれたものです。
恐竜がいた時代には、この銀杏の実を食べる動物たちがあちこちに種を運び各地に広がっていきましたが氷河期になってほとんど失われ中国の隅に少しだけ生き延びたのです。この生命力の強さもさることながら、薬効もあり、火にも強く、災害時においても生き残る長寿の木の恩恵に肖り日本ではご神木として大切にしてきたのでしょう。
実は、私もあるご神木のイチョウの実生を持ち帰りもう10年以上育てています。何回か東京のベランダの暑さと水が足りずに枯れかけたことがありましたが福岡に戻り鉢を変えたらまた新たにその鉢に合わせて甦り見事に元気に育っています。
イチョウの実は雌の木しかつけません、街路樹に使われているイチョウは雄の木で種をつけません。しかしこの雄の木の花粉を雌の木が受粉して種をつける裸子植物で風で受粉する仕組みです。その実は薬になり、動脈硬化や痴呆症などの予防にもなり、他にも病気の改善に使われます。
2.5億年前から生きているというのは、考えてみると想像を超えています。これからが長い年月を生き延び今でも私たちが実を食べることができるというのは本当に仕合せなことです。
物事の見方は、その生き物のいのちや歴史に目を向けてみると変わってくるものです。子どもたちにも身近な歴史の樹からの智慧を伝承していきたいと思います。