宿坊で暮らしていると空気の流れを深く味わいます。木々の揺れや風の音、鳥の声などすべてが空気を創り上げています。そして私もまたその空気の一部になります。山と暮らすというのは、この山の空気そのものと共にあるということです。
私はご縁あって鞍馬山に人生の3分の1の年月関わることができました。その御蔭さまでお山の空気のこと、お山で生きているいのちのこと、その調和を体験する機会がたくさんありました。今、英彦山に棲み始めているとその時の思い出や懐かしさが甦ってきます。
夜の静けさや漆黒の闇が精気を満たします。
時折、木霊の音が聴こえてきます。また水の雫や流れる気配が届いてきます。朝には光が和紙の向こうから差し込んでくると次第に太陽を感じて拝みたくなります。昼間は休憩が清々しく、少し休むだけで無上の仕合せがあります。夜の星空は、まるで宇宙にいるかのようで夕陽はまさに西方浄土のありようです。
この場所にいるだけで、ただ生きていることの喜びを感じます。
枯れ葉を掃除し、傷んだ家を修繕し、花を摘み、草木を生ける、あとは鉄瓶のお茶さえあればこの上なき贅沢です。
暮らしフルネスは、都会のなかでも安心して穏やかに見守られる場を創造するものでもありますがこの英彦山の宿坊には作為もなく企画などもなくただあるだけでその場が完成しています。
静かを守るというのは、心の静けさのままでいるということです。
常にその心が静かであるか、それはこのお山の空気のままでいるかということと同じであると私は感じています。あとは、読経三昧ができれば最幸です。
人生の節目において、覚悟を決めることの大切さを改めて学び直しています。
子どもたちに、譲り遺していきたい場を磨いていきたいと思います。