老舗の戦略

ここ数日、久しぶりに京都に来て色々と伝統的建築や老舗を観てまわっています。どの建築も今でも伝統の息遣いがあり、時代が変わっても大事に磨かれていることがわかります。建物が変わらなくても、人の価値観は変化しています。むかしのような意味が今も保たれているところは減っているのかもしれません。

形骸化することは、意味がなくなってしまうことです。如何に初心を忘れずに、同時に世の中の価値観にも順応するのかはバランスが試されます。長い年月を生き残るというものには確かな戦略というものがあることを感じます。

例えば、大きくしないという戦略があります。長く続けようとすると、時代の価値観の変化で人の感情や意識も変わりますから栄枯盛衰というものがあります。急に大きく成長すれば、同時に急に衰退することもあります。流行というものは、流行りがあるから廃れがあります。これを知っている人ほど、流行と衰退を見極めさっさと流行を切り捨て新たな流行をつくっていきます。むかしある日本の有名なゲーム会社の専務と話したときに、無数のゲームを開発していても一つ当たればすべて回収できると日々に新たなゲームを作り続けていたことを思い出しました。実際にその方は、カードゲームを当てて過去最大の利益をその会社にもたらしました。

また逆に、流行にのらないという戦略があります。敢えて、その目的にこだわり徹底して本来の役割に尽力するというものです。老舗で長く続いているのは、余計なことをしない、足るを知り、限られた場所と資源で自分のその場での役割だけに専念するということです。京都でいえば、一文字和輔という最古の和菓子屋があります。ここは、今宮神社の参道にある老舗ですが今でも1000年以上の歴史を生きて同じ理念でここに参拝する方々をおもてなしています。無理はせず、身の丈を超えず丁寧に真心を籠めて今もむかしと変わらない味と対応を心掛けておられます。

そう考えてみると、一気に拡大するという戦略と長く続けるという戦略。どちらにしても生き残るための戦略をそれぞれがもっているからこそ今でも継続することができるというものです。

戦略を持っているのと持っていないのでは、時代によって翻弄されるものも変わってきます。別にヒットしたくなくても、テレビや報道、雑誌などで急に人気がでるときもあります。そこでどう戦略の舵をきるかはそれぞれの経営者の判断です。

しかしよく観察すると、人間の人生というものは100年以内です。その中で完結するのか、それとも引き継ぐ人が出てきて守るのか、そういう生き方の影響が老舗の根幹に宿っているようにも思います。

素晴らしいのは、老舗にはそれを受け継ごうとする志のある人が連綿と続いてきたことです。これは信仰に近いものを感じます。色々と学び直して、今年の甦生に役立てていきたいと思います。