暮らしの音

聴福庵では懐かしい道具たちに囲まれた暮らしをしています。その懐かしい道具に囲まれる喜びの一つは暮らしの音です。例えば、建具を移動する音、料理をするときの和包丁の音、また炭火が燃えていくときの音、その他、風鈴や暖簾などが揺れる音が聴こえてきます。

この音は、むかしからある懐かしい音です。私たちは音を聴くとき、その音が持つ波動のようなものを感じ取っています。音には時代を超えたそのもののいのちの存在を感じることができます。

私は暮らしの音で最も好きなのは、備長炭の奏でる音です。私は炭オタクなのであらゆる炭を収集し、試行錯誤して最も音の善い炭ばかりに囲まれています。その炭が、静かに燃えるときに奏でるキンキンと啼く高音には火と水が調和するような穏やかな気持ちになります。合わせて、鉄瓶の水が沸騰しシャーシャーと沸き立つ音もまた安らかな気持ちになります。

日々の些細な暮らしの中で、どのような音を聴いているかで心の仕合せやゆとりも変わります。

暮らしの喜びというものは、この音との暮らしの中にあります。

現代では、特に都会はあらゆる人工的な機械音が聴こえてきます。それにスマホをイヤホンで聞いたり、また電磁波の音なども鳴っています。懐かしい音は、耳をかなり澄まさないと聴こえてきません。

日常的に心が穏やかで安らかになるような環境があることで、暮らしはとても豊かになります。

子どもたちや子孫のためにも、懐かしい音のある暮らしを伝承していきたいと思います。