錫杖の暮らし

山伏たちが持っている道具の一つに錫杖(しゃくじょう)というものがあります。これは起源はインドからといわれます。托鉢の際に、食べ物などを入れる器を下げて持ち運ぶものだったといわれます。

日本では山岳信仰などで山中にて修行する人たちが、獣や毒虫よけ、または音による供養として道を歩む伴侶として大切に用いられてきたといいます。

錫杖を梵語ではカッカラ (खक्खर 、 khakkhara)といいます。これは漢字でいうと有声杖、鳴杖、智杖、徳杖、金錫ともいいます。銅や鉄、錫などで造られた頭部の輪形に遊環(ゆかん)が4個または6個または12個通してあり、音が出る仕組みになっています。この錫杖のこの遊環の金具がシャクシャク(錫々)という音がなることから錫杖の名がつけられたともいわれますし、実際に錫で鍛造するから錫杖となったともいいます。

錫杖のお経に「九條錫杖経」というものがあります。これを調べると「ひとたび錫杖の音を聞けば、怠け者は精進し、戒を破るものは戒を守り、不信心な者は信心深くなり、貪る者は施しをするようになり、怒れる者は慈悲の心を持つようになり、愚痴を言う者は智慧を授かり、傲慢な物は恭しくなり、心が定まらない者は集中するようになり、たちまちに菩提の心を起こすようになる」と記されます。煩悩を取り払い、智慧を得ることができるという功徳があるということです。

錫杖の上部の遊環には意味があります。通常は1本の錫杖に付ける遊環の数は4個・6個・12個と決められます。その理由は4個は四諦を顕し、6個は六波羅蜜を顕し、12個は十二因縁を顕します。

4個は「声聞の錫杖」、6個は「菩薩の錫杖」、12個は「緑覚の錫杖」とも呼ばれています。

声聞の錫杖の四諦とは、苦諦、集諦、滅諦、道諦のことです。そして菩薩の錫杖の六波羅蜜とは、六波羅蜜、布施、持戒、忍辱、精進、禪定、智慧のことです。縁覚の錫杖の十二因縁とは、無明・行・識・名色・六処・触・受・愛・取・有う・生・老死のことです。

錫杖はその煩悩によって修行し、自己を磨こうとする一つの磨杖です。

私は錫杖の御蔭さまで人生がとても豊かになりました。引き続き、錫杖を持ち丁寧に暮らしの中の遊行を歩んでいきたいと思います。