いよいよ今年も英彦山の宿坊「守静坊」の境内にある樹齢220年以上のしだれ桜が開花をはじめました。一本桜の漂わず幽玄で幻想的な雰囲気と相まって唯一無二の舞台が研ぎ澄まされていきます。
現在、日本全国にはソメイヨシノといったクローンの桜があちこちに開花していますがこの守静坊のしだれ桜は貴重な野生種の一つで正式名称は「一重白彼岸枝垂桜」(ひとえしろひがんしだれざくら)といいます。しだれ桜というのはもともとエドヒガンという桜の突然変異によって枝垂れるようになったといわれます。
桜は今から約1200年前くらいから日本人の真心に寄り添うお花として大切に愛でられてきた存在です。梅や桃は中国から渡来したものですが桜は日本の古来からある在来種でまさに「日本人の故郷の花」です。
この守静坊のしだれ桜は、江戸時代にその当時のご当主であった真光院普覚 (1765〜1849)が京都の祇園のしだれ桜を株分けして持ち帰り植樹したものだと伝承されています。
祇園のしだれ桜は幕末までは祇園社の執行であった山科家の宿坊、「宝寿院」の庭に植えられていたものです。明治になり神仏分離令により宝寿院が失われると祇園枝垂れ桜を医師で化学者の明石博高が金五両で買い取り今では円山公園を象徴する桜となっています。
今の祇園にあるしだれ桜は昭和22年に枯死したため2代目になりますが守静坊のしだれ桜はその兄弟桜としてあの当時から枯れずに今も英彦山で生き続けているのです。時代がどうなったとしても共に遺志をつなげていこうとする偉大な歴史の浪漫を感じてしまいます。
先月、ご縁あってその「宝寿院」のご子孫とお会いするご縁がありました。このしだれ桜を通じて220年の時を越えて生き続けている歴史の中にあることの仕合せを感じました。
英彦山で「決して忘れないぞ」と美事な歴史の花をいつまでも咲かせてくれることに心から感謝します。