山伏の柚子胡椒

昨日、英彦山でとても有名な柚子胡椒の会社、柚乃香本舗の代表がお越しになりました。先代の長野覚先生の時から守静坊の柚子を柚子胡椒にしていることをお聴きしており、毎年山伏屋敷の柚子胡椒として当坊の柚子を使っていただいております。

はじめて食べてみると、他の柚子胡椒よりも野生の味わいが強く元氣が漲るような感覚があります。もともと山伏の秘薬として、あるいは宿坊庭園の観賞用としてむかしから植えられていたといいますが時代の変遷を経て柚子胡椒として英彦山を代表するお土産、名品となっているのは素晴らしいことです。

お話をお伺いすると、祖父の方が創業者で柚子胡椒の元祖であることをお聴きしました。それまでの歴史や商品を研究してきた苦労、そして実業家でもあり山伏の家系として生き方、とても示唆のあるお話に有難く思いました。

そもそも歴史というものは、生もので過去にあったことが止まったままではありません。時代を超えて形を変えて、今の人たちがその歴史を生きたままに伝承していきます。人間が感知する歴史は、50年くらいたてばもはや何がその当時に行われていたのかは生きている人から伝わらなくなってくるものです。生もののように鮮度があるのです。いくら教科書や記録に書かれていても標本のようになっていても、動いているもの生きているものではなければ真実がわかりません。

しかしそれを観た人が多数生きていて、今もそれを大切に扱い、それぞれの記憶や実体験を口伝等でお伺いしていくなかで生きたままの鮮度を甦生させて生の歴史を知ることができます。

柚乃香本舗は創業者の祖父の実業を受け継がれ、今でもその初心と共にお仕事をなさっておられました。私も宿坊にある柚子と共にこれからも英彦山をはじめ柚乃香本舗のお役に立てることに感謝の思いがします。宿坊甦生の際にいくつかの木を作業できないからと切ってしまったことに深く反省しました。改めて英彦山の柚子の木をもっと大切にしなければと反省と決意をいただきました。

英彦山とのご縁は、この人生においてとても大きなものです。英彦山に関係する人たちと出会い、生きた歴史を知り、生きたままに歴史を味わう。こんな仕合せや喜びはありません。

丁寧に歴史を紡ぎながら、志や伝承を紡ぐ方々と共に子孫へと真心を結んでいきたいと思います。

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