先日、聴福庵に苔庭づくりを行いました。世界でも苔を庭に用いる文化があるのは日本だけだといわれます。発見されているだけでも世界で約2万種、日本ではその1/10に相当する約1800種が知られています。コケ植物は蘚(せん)類、苔(たい)類、ツノゴケ類の3つに大別できそれぞれを別の門に分類する場合もあります。日本の高温多湿の風土において苔の多様性は顕著であり、ありとあらゆる苔たちが生息し山から川、ありとあらゆるところで植生しています。
もともと苔の語源は「木毛」であり、元来は樹の幹などに生えている小さな植物の総称だったとする説が有力です。古来から日本庭園や盆栽で利用され、日本の国歌「君が代」でも歌われます。この苔という漢字が日本に伝わった当時は苔を主に藻を指す言葉として用いられ、コケについては「蘿」という漢字が当てられている歌もありました。他にも苔は菌類の一種でキノコと同じように扱われている地域もあります。
植物の状態でもしも苔を分別するとすれば水中にいる藻と、地上にいるシダ植物のちょうど中間に位置しているともいえます。根っこも茎ももたないこの苔たちは空気中の水分を取り入れてゆっくり繁殖していきます。半日陰を好み、乾燥を嫌います。神社の奥深い杜の中や、森林の深い渓流の水辺には苔が繁殖しています。
この苔の持つ深い緑に私は強く惹かれます。土を覆い、水分を保ち、周りの木々や生き物たちの潤いになる苔の生き方は決して大きくなくても目立たなくてもじっくりとゆっくりと悠久の年月を語ります。
寺院の苔庭や、神社の大木と共に存在している苔を眺めると私はいつもそこにしっとりとした穏やかな悠久の刻を感じます。庭を観ては悠久の刻を感じられる世界というものに憧れ、聴福庵の庭を苔で飾ることにしました。
水の流れ、水の音、水の輝き、水の波長、水の気配、いのちの水に包まれる苔。
こういうものを緩やかに穏やかに感じられる感性こそが和の心を呼び覚ますように私は思います。日本人が古来から悠久の刻と共に愛でてきたしっとりと瑞々しい赤ちゃんのような純粋な真心のような苔、日本の文化、日本の心を子どもたちにもそのままに譲り遺していきたいと思います。
「日本国家」
君が代は
千代に八千代に
さざれ石の 巌となりて
苔のむすまで
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「日当たりがよく、風通しがよい」ことが、最高の条件のように思ってきましたが、それは「人間の都合」だったかもしれません。「ジメジメ」と言ってしまうとイメージがよくありませんが、いろいろなものが循環するなかで、「保湿」「保水」は地球環境を守り、そのバランスをとるために重要な役割を果たしているのでしょう。「日の当たらないところの役割」を見直す必要があるようです。
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聴福庵の中庭に広がる苔を見ていると以前にも増して奥行きを感じました。あの鮮やかな色、そして前からあったように馴染んでおり縁側から見ても、2階から見ても心が穏やかになります。今回苔に触れたことで国歌の歌詞にあることも改めてその悠久の刻ということを感じます。日本の文化、心を子どもたちに譲っていけるよう学びを深めていきたいと思います。
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単体で届いたものを中庭に広げた時はそれほどわかりませんでしたが、外出して帰って来て出来上がっていた苔庭を見て、まさに場に馴染むというのはこういうことなんだと唸りました。どれもがしっとりと調和してその場のチカラが高まっている、そんな風に、自分たちの働きもまた同じようでありたいと思います。
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苔が天に向かって育っていく姿は、自然の強さや優雅さを感じました。千代に八千代にという長い時間を表現する苔のように、そんな働きを人生でして行きたいと感じます。自分の代だけならず、積み重なる働きをして行きたいと思います。