おもてなしの本質

「お客様は神様です」という言葉があります。これは商売の間では、一般的にクレームの声や様々なアドバイスや利益をいただけるお客様はまるで神様のようであるというように使われているように思います。

しかしこの言葉を使い広がった起因となった歌手の三波春夫氏は、お客様は神様であるという意味をこう言います。

『歌う時に私は、あたかも神前で祈るときのように、雑念を払って澄み切った心にならなければ完璧な藝をお見せすることはできないと思っております。ですから、お客様を神様とみて、歌を唄うのです。また、演者にとってお客様を歓ばせるということは絶対条件です。だからお客様は絶対者、神様なのです』

しかしこの本意がなかなか伝わらず三波春夫氏は説明に苦慮されたそうです。それが下記の問答の中にも残っています。

『ある時こんな質問を受けたことがあります。「三波さん、お客様はお金をくださるから神様なんですか」と。私はその時その人に聞きました。「じゃああなたは神様からお金や何かをもらったことがありますか。お賽銭を上げてお参りするだけでしょう」』

信仰するということの意味から離れて、個人の損得のみで判断する世の中になっていく中で本来の「神様に対する姿勢」という畏敬の念もまた失われてきたのかもしれません。

この神様に対する姿勢の中で日本民族の代表的な言葉に「おもてなし」があります。広辞苑ではとりなし、つくろい、たしなみ、ふるまい、挙動、態度、待遇 馳走、饗応など書かれます。真心を持って気遣いや心配りをする生き方のことで日本人の徳性の一つです。

このおもてなしは、裏表なしの「おもてなし」とも言われます。裏のないあるがままの純粋な心のままに気を配るということです。ここに私は先ほどの神様が深く関係していると感じるのです。

日本では古来より、神事や御祭において神様を自然の場所から御社へと御迎えして「おもてなし」を行います。供物や神楽をはじめ素直な心で真摯に感謝の念を伝えます。この時、私たちが実践しているのは「神様をもてなす」ことであり、「お客様は神様」になっているのに気づきます。

お客様が神様であるというのは、私たちのご先祖様が常日頃から生活文化の中で「暮らし」を通して自然に実践を積み重ねてきたものであり、世界に誇る真心の接待は神様をお客様として御迎えするなかで伝承されてきた「生きざま」だったのです。

しかし今では、御祭りの意味変わり、個人主義が蔓延し、人間のみを相手にサービスばかりを増やしては満足度を気にしているようでは「お客様は神様」の意味もまた変わってしまうのでしょう。

どれだけ相手を卑下せず尊重して自らの姿勢を正すか、畏敬の念で相手の心に寄り添い丹誠を籠めて真摯に尽力しようとするところにその人たちの目線の丁重さを感じます。低姿勢の人はみんな生き方が謙虚であり、相手のことを慮り思いやる素直な姿勢を持っています。

常に自分の姿勢を省み、全てのいのちを神様だと思いそのお客様に仕える心で生きていきたいと感じます。ご先祖様たちの大切にしてきた暮らしを守っていきたいと思います。

  1. コメント

    ときに神さまは、姿・形を変え、人間の誠意を試されることがあります。相手を、その格好や社会的立場で判断せず、いかなるときも、いかなる状況でも、目の前の人に「精いっぱい、心いっぱい尽くせるか?!」常にそれが試されているように感じます。相手によって態度が変わるのは、まだ本物と言えないでしょう。慢心しないように、神さまより偉くなってしまわないように、一つの態度で生きられるように精進したいと思います。

  2. コメント

    サービスをしてもらえると確かに嬉しさがあります。ですがそれを、もっともっとと求め始めると、お金を払っているのだからとお金とモノだけの関係になってしまいます。自分自身に正直で素直か、それは日々の振り返りにも似ています。どうしたら喜んで頂けるか、その心が表れたのが何かの形だと思うと、どうしたら喜んで頂けるか、自分だったらどうだろうかと自問し行動に変えていきたいと思います。

  3. コメント

    裏表なしの真心を思うと、伝えずにはいられない事が出て来ますが、それを伝える言葉にも苦しい感情や義憤の感情などの自我が混じります。振り返る度に、まだまだ未熟な自分を見つけますが、これも天の声と受け止めて行きたいと思います。

  4. コメント

    「お客様」という言葉のと捉え方も、古来の日本人のそれと今の時代では少し違いがあるのかもしれません。少なくとも自分にはまだそういうズレが残っているように思います。全てのいのち、そこに自分自身の本心・初心も含まれているのだということを忘れず、ぞんざいに扱わないよう気をつけたいと思います。

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