修繕理~福の思想~

現在、大量生産大量消費の価値観の中で新しいものを買っては古いものをすぐに捨てていく風習が日常になっていますから修繕や修理ということは失われてきています。

先日も長年使っていたプリンターを修理したいとメーカーにいうと、修理するよりも購入する方が安いことと昔の機種はもう取り扱いもないので廃棄してくださいと言われました。

この修繕というものは、辞書では壊れたり悪くなったりしたところを繕い直すこととあります。そして修理は、壊れたり傷んだりした部分に手を加えて、再び使用できるようにすることとあります。

長い時間をかけて使っている住まいや道具は、時間が経てば自然原理によって傷んでいきます。そのままにしていればすぐに壊れるものも、よく手入れをし修繕を続けていけば本来の寿命も何十倍も長く活かし使うことができます。

また壊れたものであっても修理をすれば、元のように使い続けることができます。そして修理をした後は、よく修繕を繰り返しそのものが長く生き続けられるように手伝っていくのです。

聴福庵では、明治初期の鋳物が入った桶のお風呂があります。もう100年以上経っていますからあちこちが傷み私の手元に来た時には床が抜け、鋳物の周りは腐食して穴が開き、あちこちが虫食いで破れ、ほとんど使えない状態でした。それを桶屋さんにお願いして修理し、届いてからは柿渋と渋炭、またヒバの油で塗装し、桶の内部は竹酢やにがりを用いて木を活かし続けるように利用します。また鋳物は、適宜清掃し、また鋳物を傷めないように備長炭を用いて使います。

こうやって大切に修繕を続けていけば、そのものも大切に扱われている風格が出てきます。昔の大工さんの大工道具や、左官さんの鏝、また手作業手仕事をする人たちの大切な道具と同じようにそのものから熟練の実力が備わった徳の高い姿に変化します。

修理や修繕というものは家屋をはじめ神社仏閣にいたるまで、そのものが長く続いた歴史の中にそれを大事に守り続けてきた人たちの修繕理の歴史があります。そこには大切な思いが宿り、その宿った思いを持ち続けながらそのものは生き続けます。

修理や修繕というのは、決して貧乏くさいことでもなくケチくさいわけでもなくいつまでも大切に使い続けたいというもったいない心、美しい精神なのです。

取り繕いというのが単なるその場しのぎのように使われますが本来の修繕というのは決してそういう意味だけではなくそのものを大切に守り使い続けたいという愛情や真心、寿命を伸ばしていこうとする「福の思想」が入っています。

修理できる人がいなくなっていく寂しさと、修繕しようとする人がいなくなっていく切なさがありますが子どもたちのためにも今とこの世代を磨き上げ復古創新し先祖から大切にしてきた美しい精神やもったいない心を生き方を通して譲り遺していきたいと思います。

  1. コメント

    電化製品だから壊れる、その一言では片付けられない根深い問題を感じます。そして、さをり織りをはじめ一着仕立てただけでも何で昔の人は器用で、帯や着物を大事にしていたのかも感じるものがあります。暮らしが便利になっていく中で失っているものも同時にあるのかもしれません。生まれた時から様々な電化製品に囲まれあって当たり前の生活をしていると、本当のことがわからなくなります。聴福庵はそういう意味でも、子どもに遺したい伝承施設であり、今の暮らしを考え直す場でもあるのだと感じます。行き来する中で自分自身の刷り込みにも気づけるよう、実践を積んでいきたいと思います。

  2. コメント

    最近では、「ものをつくる人」の多くが、修理修繕することを前提にものづくりをしていません。したがって、修理修繕の仕組み自体がありません。一方、「使う側の人」も、修理修繕しながら使い続けるという発想を持っていません。最初から、買い替えることを前提で使っている人も増え続けています。そういったなかで気になることのひとつは、「壊れてから気がつくような使い方をしている人が多い」ということです。「ものの扱いが雑になっている」ことに注意したいと思います。

  3. コメント

    自分自身も修繕する力が必要だと感じます。就職でも上手くいかなくなったら、リセットして新しい場所へという発想があります。しかし、それでは何も変わらず、悪いことは悪いままです。自分自身を修繕するというのは、自分自身を大切にすることなのだと改めて感じます。建物と同じく自分自身を大切にして行きたいと思います。

  4. コメント

    この話を聴くと、ある方が仰っていた風呂の湯の話を思い出します。古いもの、使われてきたものは、一番風呂の湯のかたさのようなものがないと。新品・新しいものがいいとされ好まれる世の中ですが、大切に使われてきたものの持つやわらかさは、なじみやすく安心を感じやすいのかもしれません。懐かしさを感じるのは、そんなところにもあるのでしょうか。

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