失われていく文化

昨日、佐賀県鹿島市にある創業100年以上続く漬物蔵「漬蔵たぞう」に訪問してきました。聴福庵の風呂に使う樽を譲っていただくことになり選定と発送作業を一緒に行いました。

その樽はすでに50年以上経過しており、15年前から使っておらず今では蔵の中の大きなモニュメントとして活躍していたものです。蔵を拝見すると、その空間には発酵蔵として長年生き続けてきた息遣いを感じ発酵場があることを実感します。

私も自宅裏の森の発酵場で伝統の高菜漬けを種から育てて漬けていますが発酵場独特の空気感や酵母の醸す香りや佇まいには癒される思いがします。この蔵の中に置いてあった樽には、100年間漬物一筋に手作りで手掛けてきた人との思いや、その中で共に暮らしてきた菌たちも樽に住み着いているように思います。

その樽を使わなくなった理由をお聞きすると、桶職人さんがいなくなったことが一番大きいと仰っていました。これだけの巨大な樽のたがをしめることができる桶職人がこの地域からいなくなりメンテナンスができなくなったそうです。

この地域は、肥前浜宿といって長崎街道の脇街道として酒造を中心に栄えた宿場町です。本来は酒を醸造するために大きな樽がたくさんあったものですが、その樽も次第になくなり桶職人さんもいなくなって今に至ります。

本来、伝統文化というのは職人さんがいてこそ成り立つものでそのつながりの中で様々な伝統が維持できていきます。大工、左官そして鍛冶師と研師が一体であるように、この樽や桶と酒、漬物、味噌、醤油などの発酵師たちもまた一体なのです。

意味があってあった職業が今では西洋のものと挿げ替えられ、伝統のものを修繕したり修理する技術も失われていきます。消えていく文化というものは、連綿と続いてきた先祖の知恵が消えていくということです。

先祖の知恵によって数千年も生き続けてきた私たちはこの風土の中で生き残るために真摯に改良を重ね今も存在できていますが海外から入ってきた風土にそぐわない技術に安易に便利だからと飛びつけば取り返しのつかないことを未来に残してしまいます。

たとえ小さな種火であったとしても、その種火が遺るのならその種火からまた火を大きくしていくことができます。私が取り組んでいる伝統の高菜も種があるから続けられ漬け続けるから子孫へと継承していくことができます。

こんな時代だからこそ忍耐力が求められますが、何をもって成功というのか何をもって成長というのか、失われていく文化と向き合いながら子どもたちのためにもあらゆるものを甦生させ活かしていくために発明に挑戦していきたいと思います。

ご縁いただいたこの樽は、これから福岡県八女市の松延さまの手によって聴福庵のお風呂として甦生します。このお風呂の一つの物語が子どもたちに伝承され、末永く心に残っていく風景を醸し出すようにと祈り見守りたいと思います。

・・・義を見てせざるは勇無きなり。

たとえ目のくらむような巨大な壁に怯みそうになっても、失われていく文化を前に今、自分にできることから実践していきたいと思います。

  1. コメント

    聴福庵を通して多くの職人さんと出会い、そして現状を目の当たりにする。直しているのは家だけではなく、結びつきや生き方そのものであることを感じます。もし、5年10年遅かったらもう出会えなかった人も中にはいるのではないかと思うほど、現実は切迫しているように感じ自分にできることは何なのかと思います。聴福庵のこの1年のプロセスもどこかの役に立つと信じ、今やるべきことに力を尽くしていきたいと思います。

  2. コメント

    ものづくりのレベルは、その国の職人のレベルです。伝承のレベルも代々の職人のレベルに依ります。また、修繕・修復する人は、その修繕・修復を通して作った人のレベルの高さを知り、それに負けない技術で応えようとします。こうして、時代を超えて、良きものは受け継がれていきます。そこで大事なのは、「職人」の存在です。職人は、国家の財産であることを再認識する必要があるのではないでしょうか。

  3. コメント

    来ているものから目を背けない強さを感じています。落ち込むことも、学びや勇気に変えていく姿は周りに大きな活力を与えてくださるように思います。日々、挑戦。自分に負けない強さを磨いて行きたいと思います。

  4. コメント

    風呂一つでもこれだけの物語と意味があるのは、まさに聴福庵ならではだと思います。日本の桶は皆の協力なしには成り立たず、だからこそ周囲の力を活かす道具でもあり、逆に現代のプラスチックはそのものだけで完結、それはあたかも一人で完璧を求め誰の力も借りず長所も活かそうとしない生き方・働き方のようでもあります。そこに何があるのかを観ていきたいと思います。

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