昨日から聴福庵の床の間の砂鉄塗のための準備を、各地の左官職人さんたちと一緒に行いました。夜はそれぞれ自己紹介をしながら左官の仕事や生き方について語り合う豊かで味わい深い時間を過ごすことができました。
若い職人さんたちはみんな一生懸命で、親方の指導を受けて真剣に土の配合や塗り方などを学び取っていました。親方も弟子たちや左官職人さんたちの持ち味や性格を見抜き、それぞれに必要なアドバイスやまた励ましをしていたのが印象的でした。
そこには単なる技や能力を教えるのではなく人間としてその弟子たちや職人たちが健やかに成長していくのを見守っているようにも感じ親方の愛情と仲間たちの親愛の情に心が温かい気持ちになりました。
親方というのは、その道を究めその道で先を生きた人です。その親方が自分の歩んできた道から、葛藤し悩む弟子たちに生き方を語り、その姿でこの仕事の美しさや使命感、さらには何が人生において大切なことであるかを優しく諭します。そこに兄弟子や指導を受けた先輩が、他の未熟な弟弟子たちに「親方の顔に決して泥を塗るなよ、つまらない仕事をして名前を汚すなよ、心構えが甘いものや幼稚な技能をやるなよと本気で研鑽を積むように」と親方がいないところで厳粛に指導しておられました。
こうやって職人たちはその場で一緒一体になって、心技体を学びます。優しく穏やかに見守る親方と、厳粛に指導する先輩職人、そしてそれを受けて生き方を見つめる若弟子の姿、この伝承の学び合いの美しい瞬間に立ち会えて仕合せな気持ちになりました。
今の時代は、一般的な会社では師弟関係などはありませんしあくまで仕事とプライベートは分かれていますから生き方や働き方まで指導してもらおうなどとは思ってもいない人が多いでしょうし、何かあればパワハラなどと言われ遠慮してあまり深入りしないのが今の世の中の風潮です。
しかし道に入るというのは、生き方を変えるというこですから師は弟子に本気で愛情を注ぎますし、志を持った弟子はその愛情を受けて必死に育とうとします。師弟愛というのは、教育の原点であり、伝承の要諦です。
最後に、ある若い弟子の一人が今の左官の仕事は大きな会社の下請けでモルタルばかりを塗り自分のやりたい伝統の土壁や古来からの左官の仕事ができず煩悶し葛藤している人がいました。親方が、その状態を見守りながらあなたがどうするかとその弟子が覚悟を決めるのを寄り添い見つめているのを感じました。その若い弟子は、「親方に出会わなければ一生私はこんなことにも悩むことはなかった、土(生き方)に出会えたのは親方とのご縁があったから」と仰られていました。確かな「導き」を感じた瞬間に、伝統が伝承されていく心安らかな思いがしました。
最近は私も人生の後半に降りていくなかで特に日本人の次世代の未来のことばかりを考えるようになりました。
子どもたちには「生き方を学び直すことで道は拓ける、その生き方を一つでも多くこの世に遺したい」と願い祈るばかりです。
子どもたちが健やかに自分らしい人生を歩み、日本の先人たちの智慧や文化に見守られ根とつながり仕合せに花咲、実をつけ、種になれるよう、引き続き私の天命に従って遣りきっていきたいと思います。
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今回の講習を行うにあたり、どの職人に声を掛けようかと悩まれているのも印相的でした。写真や動画を通じてですが、職人さんが実際に作業する姿や講習を受ける姿、昨年では考えられないことが次々起こっていること驚きです。聴福庵から学び教わることはいつも多くありますが、子どもに恥じないような生き方を積んでいけるよう精進していきたいと思います。
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「親子」だけでなく、「師弟」という「縦の関係」も非常に重要だと感じます。「師弟」の中でも「親方とその弟子たち」というのは、家族的な雰囲気があり、厳しい中にも温かさがあります。自分の求める道の中で、どのような「親方」や「先輩」と巡り合うかということは、その生き方において大きな意味があるでしょう。そして、それは、「どれくらいその道に生きる覚悟ができているか?!ということを問われることにもなるでしょう。
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どの道を生きるかを決めるのは簡単なことではないと感じますが、決めた道を歩み続けることも簡単なことではなく、そんな時、家族や仲間が支えになってくださいますが、やはり決めた初心が強い程に、自分を支えてくれるように感じます。そんな初心を温かく見守って下さる師匠のような存在は、やはり自分の生き方が導くのだからこそ、生き方を磨いて行きたいと思います。
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砂鉄塗の講習会という名目ではありましたが、実際の職人の方々の姿やその時の様子を伺うと、当然ながら技術の講習ではなく何を伝え遺していこうとしていた場だったのかが感じられます。壁を塗る、畳を縫う、紙を漉く、それらを技術の習得や向上だけではなく心の世界にまで高めていけるのは日本人らしいあり方のように思えます。日本人の一人として、道を求めていきたいと思います。