今の時代は道具の使い方も変わってきています。むかしは、道具は適材適所に合わせてその最適な道具を選別して用いていました。例えば包丁などもむかしは、素材に合わせてその素材の持ち味をもっとも活かすような包丁を選択して料理していました。和包丁は種類が大変多いため、使い手の技術が求められます。それぞれの素材にそれぞれに切り方、そして包丁の扱い方が求められます。しかしむかしの人たちはその包丁を通して、素材の特徴や自分の道具の扱い方を学び、人も道具も同時に研鑽を積んでいたのです。現代では、万能包丁をホームセンターで買えばそれ一本でなんでも切って料理します。本来、和包丁には万能包丁など存在しません。
これが人材の分野でも起きています。実際に万能で優秀な人間がいればいいとし、適材適所ではなく同じ能力を持っている人間ばかりを集めて教育しようとします。本来、万能というものは実は便利という意味で万能であっても、それぞれに特徴が秀でているわけでもなく完璧な優秀という意味ではありません。しかし学校の成績のように平均的にすべて高得点であることが優秀だと刷り込まれ、自分の得意不得意を理解しその持ち味を伸ばすようなことよりもなんでもできるようになることを目指して頑張っている人が増えています。
実際には、一人で生きていくのならそれもいいのですが社会はみんなと繋がり合ってみんなの個性や特性、それぞれの持ち味を活かして働くことが豊かで仕合せになりますから先ほどの包丁のように素材に合わせて適材適所に用いた方がお互いに活き活きしていくのです。
それができなくなるのは、万能がいいという刷り込み、また人材を扱う技術も衰えていきそれぞれの持ち味を使い分け適材適所に配置する感性や能力など磨かれていないからです。和包丁ももしも道具も素材も活かそうとするのならば、職人も道具も同時に磨き合い、お互いにそれぞれの技術を高めていく必要があります。そのためには人間は人格を、道具は品格を磨く必要があるのです。そうやってお互いに切磋琢磨することで、全体が調和する和の料理を実現することができます。
チームワークなども同様に、人が調和するには人格と品格をもって人材を適材適所にそれぞれが配置し合い、仕事の扱い方や使い分け、その時々で持ち味を活かした協働や協力をして調和していくことが必要です。
そのために万能であることを求めず、この時はこの人、この時はこの道具、この時はこの技術と、それぞれに人と道具が姿勢を正しお互いが切磋琢磨し合って高め続けていく必要があります。そういう日々の協働や協力の積み重ねで、美しい味わいを引き出す私たちの伝統の和が実現するのです。
和とは決して包丁に限らず、私たちの先祖代々の生き方や姿勢ですから日ごろからそういう関係性を築くために学び続け高め続け、切磋琢磨して精神を和に原点回帰していく努力精進を続けていく必要があります。便利さで誰でも簡単にというのはいいのですが、それは本当の意味で自分を活かし道具を活かし、お互いが高め合って調和する豊かで仕合せから離れてしまうことなのです。
この世に存在する人も物も、お互いの持ち味が活かされ引き出されれば存在価値や存在意義を感じて人も物もみんな喜ぶのです。そうやって歓びが連鎖することで社會は豊かになっていくのです。
引き続き、和の経営を続けつつ子どもたちに日本の精神を伝道していきたいと思います。
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確かに、「万能」というのは「便利」という意味にすり替わっています。そして、その「便利」という発想の背景には、「面倒臭さを排除して楽をしよう」という思想というか風潮があるのでしょう。「便利」で助かることもたくさんありますが、その分「質が落ちている」ということは注意が必要です。またそれは「違いを生かし切らない」ということでもあります。個々を、一つひとつを、一人ひとりを「生かす」という発想を忘れないようにしたいものです。
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金子みすゞさんの有名な一節「みんな違って、みんないい」。あの言葉の時代背景や想いは分かりませんが、今回の内容を照らして考えると、みすゞさんも身の廻りにある道具からもそのことを感じていたのかもしれません。表面的な意味だけではなく、その奥にあるものを感じ、身の廻りの謳った詩が多いからこそ、そんなことを思います。
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便利なモノや「風」が付くものは全部、本物にはかないませんが、手軽に5割や4割の出来栄えを手に入れることが出来る。今の時代、この手軽さの価値が高くならあるを得ない、社会になってしまっているのが一因だと感じます。本物ではないがそれに近しい状態を短期間で効率よく手に入れて、人生を楽しむ。人類は技術や知識を手に入れても、これでは人格が磨かれていかないと感じます。手に入れた便利さとせめて同じ分だけ、人格を磨く社会づくりを考えていかなければ、衰退していくばかりのように感じます。暮らしを整えていく重要性を改めて感じます。
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ミマモリングソフトの「個性のまとめ」でも、グラフが横一列になる子などいないことを思うと、万能と平凡は同じような意味なのかもしれません。野口勲さんが「顧客の第一要望は味のない野菜。野菜に味があるとレシピが狂うから…」と仰っていました。持ち味を削がれた野菜を化学調味料で味付けするというのは、なんとも皮肉な話です。そのものの持ち味を生かし、活かしあっていくことを大事にしていきたいと思います。