伝統の価値観

人は体験することではじめて全体で何が起きているのかを理解することができます。いくら頭で知識だけで分かった気になったとしても、それは妄想であり現実の実感は持てないものです。実体験の苦労があってはじめてそのものを直視することができ、そこから直観することができるのです。

例えば、幼い子どもたちにいくら知識でいろいろなことを教えても体験の価値には敵いません。先日の農作業やお米作りでも、自分で田んぼでお米を育ててみてはじめて日ごろから食卓にあがるお米の尊さを自覚するのです。体験には苦労はつきものですが、この若い時の苦労が自分が成長していく過程で先祖から連綿をつながっている伝統の価値観を学ぶことになります。

むかしから自らの実体験によって暮らしを実践し、その暮らしの中から私たちは伝統の智慧を継承してきました。この伝統の智慧は、伝統の価値観を持つことではじめて活かすことができます。伝統の智慧はそのままでは意味がなく、活かすことではじめて意味が出てきますが、その智慧を活かせるようになるには大前提として日本人としての価値観を伝承している必要があるのです。

本来、日本語も同じく伝統の体験を磨いて日本人の価値観を持った人がその言葉を用いればそこに智慧が働きます。自分の価値観は環境や生育によって育まれるものですが、その価値観に先祖から伝来している智慧を習得できるかどうかは世界の中で自分たちのアイデンティティを確立するためにもとても大切なことなのです。

苦労を避けて、楽に便利に汗をかくことをやめた日本人は日本人の価値観を忘れていきます。特に伝統や暮らしが失われ、実践する機会もなければほとんど日本人ではなくなっていくのです。

伝統の価値観は、私たちの「根」であり、根を学ぶことは先祖からの智慧を学び、生き方を伝承し、子孫へと精神を継承していくことです。これは先祖伝来のチカラであり、私たちの先祖が子孫のためにと見守ってきた愛の伝道でもあります。

今の私が此処にあるのは先祖がいのちのリレーをしてくださったからであり、そのバトンを受け継いで走っているのを忘れるのは本末転倒です。

引き続き、子どもたちのために何が遺し譲れるか、本質を見極めながら脚下の実践を積んでいきたいと思います。

  1. コメント

    『聴福庵』に半年ぶりに訪れる中で、この間の変化やこれを一人でやったのかと思うと、凄いの一言しか出ません。写真を通じて何がどうなったかを見ていても、現地に来て感じるのはそれとは大きく異なります。写真では感じられないもの、それは教科書を読んでわかった気になるのと同じで、肌感覚で感じるものは知識では教えようもありません。汗をかいてはじめて分かること、この感覚を大事にしていきたいと思います。

  2. コメント

    松下幸之助さんは、「まず汗を出せ。汗の中から知恵を出せ」と仰いました。いまは、汗をかくことが格好悪く、汗をかかない方法を求める風潮にあります。しかし、「便利」という発想と引き換えに失った「汗をかく時間」は、日本人として大事なものを奪い去った気がします。「手間暇」の中にある丁寧な生き方を見失わないようにしたいと思います。

  3. コメント

    先日の「むかしの田んぼ体験会」では、田んぼの中に足を踏み入れた際の生温かさや目を凝らして観ると生きものがいっぱいいることなど、肌で感じ心で感じるものが多かったように思います。子どもたちは本来いつもそのような体験をしているのかもしれませんが、今はその環境が少なくなってきていることを思うと、体験して五感で感じられる場をこれからの子どもたちに遺してあげたいと思います。

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