先日、ある会議で脳科学の話しになり「シナプスの刈り込み」という言葉を知りました。脳科学辞典にはこのように記されています。
「シナプス刈り込みとは、必要なシナプス結合だけが強められ、不要なシナプス結合は除去される現象である。発生、発達期の動物の脳内ではある段階になると神経結合(シナプス)が形成され始める。生後間もない時期の動物の脳では、過剰にシナプスが形成され、その密度は成熟動物でみられるよりもずっと高い。生後の発達過程において、このうち必要な結合だけが強められ、不要な結合は除去されて、成熟した機能的な神経回路が完成する。この過程は「シナプス刈り込み」と呼ばれており、生後発達期の神経回路に見られる普遍的な現象であると考えられている。」
そもそもこのシナプスとは、神経細胞と神経細胞との接続部、その接続関係のことをいいます。この神経細胞のことをニューロンといい、それをつなぎ伝達される興奮の増幅や抑制をシナプスが司っているわけです。
人は生まれてから最初に脳の神経細胞を発達させ膨大な量のシナプス結合をしていきます。果てしなく膨大な結合をしていきますが、ある一定のところまで発達したら今度は不要なものだけそぎ落としていくという具合に最適化していくのです。
そうすると自分の人生に必要なだけの神経回路を構築し、その結合部の通り道を標準化して成熟した場所を用意していくのです。まるであらゆる混乱した雑多な都市を、シンプルに自分に最適な都市計画通りに新たな都市を構築するかのようにです。
それでも数百億個のニューロンを維持するのに、人間は大変なエネルギーを消費していきます。人間は意識を維持し活動するエネルギーの20パーセントは脳で消費されているとも言えます。膨大な情報を処理する脳のことを改めて科学で知ることは私たちの人類の発達の仕組みを知るためにも効果的なことです。
話をシナプスの刈り込みに戻しますが、このそぎ落としていく作業というのは人生においても同様に人格を磨く中で同じことが行われます。幼少期、少年期、青年期、壮年期、老年期などをそれぞれの人生の期間において様々な体験をし、自分に必要なものかそうではないものかを刈り込んでいきます。
膨大な体験を通して、自分に必要かどうか、不要かを自己認知してそれを最適化していくなかで人格が成熟していくからです。その刈り込みを、誰かによって刷り込まれると本来刈り込む必要があるところをそのまま残し、そうではない不要なものばかりが残ってしまうこともあるように思います。
脳がバランスを崩すのは、本来の最適化が阻害されるからかもしれません。子どもたちが安心して発達するには、この刈り込みを自然に行われていくための工夫が必要ではないかと私は思います。それはそのままでいい、素のままでいいという状態において、本人自身が善悪是非を問わず、自らそれをやり遂げたときに成熟に向かっていくからです。
安心した環境や見守られているなかで信じられていればいるほど、刈り込みは自然に和していくように思います。それが抑圧されたり、恐怖を与えられたり、不安な状態は刈り込みもまた歪になっていくのかもしれません。
子どもの発達と脳科学を参考にしながら、本来の人間の成長を洞察してみたいと思います。
コメント
「脳」をはじめとする人体の機能は、とても素直に働くように出来ているといいます。それは、「出来事に対して」ではなく、「その出来事の受け取り方」に対してでしょう。いのちを護るためには「危機感」というものが必要ですが、人生には「安心感」が欠かせません。そう考えると、「環境」だけでなく「環境の働き方」が重要になってきます。真に人を生かせる「バランスの良い環境」というものを探求していきたいと思います。