荏油の魅力

先日、古民家甦生の柱の塗装に天然の純正荏油を使って行いました。この荏油を家具木工用語辞典で調べると「荏胡麻(えごま)の種子から採取した乾性油。精製していないものは強い匂いがあるが、良質のものは家具の艶だしに使われるなど、日本古来の伝統的なオイル。桐油紙(とうゆがみ)の製作や和傘などにも塗った。「えのゆ」とも言う。」と記されています。

この荏油の歴史は、貞観年間に大山崎八幡宮の宮司により開発されたとされています。いわゆる「山崎の油」は荏油である。ここの神社は「油の神様」としても今でも有名です。先ほどの宮司が「長木(ながき)」という搾油器を発明し、油は石清水八幡宮を初めとする京都の寺社で灯明として用いられていたほか、宮中にも献上されてるようになりました。

この神社がある大山崎町は荏胡麻油の町です。この荏胡麻とはシソ科の植物で「え」「あぶらえ」「じゅねん」などとも呼ばれます。胡麻と入っていますが実際にはあのゴマ油のゴマとはまったく別の植物です。高さは1メールトルほどになり秋に実がなりその実を絞ったものが荏胡麻油を抽出します。これをシソ油と呼ばれることもあります。今のように菜種油が普及するまで日本で植物油と言えば「荏胡麻油」のことを言いました。この大山崎町では平成21年度から「エゴマ油復活プロジェクト」が始まり、荏胡麻の栽培、荏胡麻油の活用を研究され、荏胡麻油が大山崎町の魅力のひとつとなるよう活動されているといいます。

もともとは、灯明油として、また雨障子、和傘の耐水処理に用いられたものが次第に塗料として用いられるようになります。今回用いた、荏油は性質は亜麻仁油と似ていますが、乾燥性がよく、艶のある滑らかな仕上がりになります。むかしから京町家の格子はベンガラを溶いた荏油で塗り、菜種油(不乾性油)で手入れをしたというのを聴いたこともあります。

この荏油を天然木にすり込むように塗っていくと木材の内部に深く浸透して素材本来の色や艶を引き出てきます。新しい木も格式があるような美しい模様が出て、古い木はその経年の雰囲気にうっとりします。これを塗っておけば耐水性も増し、木材や素材を長持ちさせることもできます。また荏油は100%植物油の自然塗料ですから有害な化学物質は一切含まれません。

先人の智慧で生まれた暮らしの道具は、いつまでも子孫たちが長い時間を過ごす家を守り永続的に安心して使っていくことができます。現在は、金額的に安いからと化学物質を使いシックハウスになっているところが増えています。

子どもたちのことを想い、いつまでも安心して仕合せに暮らせる仕組みを伝承していきたいと思います。

  1. コメント

    あらゆるものを「自然の中」に発見し、「暮らしに役立つよう」改良に改良を加えて商品にする「人間の工夫力」にはいつも感心しますが、同時に、そういうものを「さりげなく、自然界の中に用意している天の配慮」には、さらに驚かされます。ただ、「その活かし方」として、「我欲が勝って副作用を起こすものに変えてしまう」か、それとも「その永続性の価値を維持できる智慧を発揮できるか」は、いつも試されているのではないでしょうか。

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