以前、ある方から蜘蛛やトンボやカエルが古代から稲作と共存してきたことを寺院の古鏡に刻まれていたというお話をお聴きすることがありました。確かに、稲作にとってその3つの昆虫はよく見かけるもので稲を食べる虫を食べてくれる虫でもあります。
トンボやカエルなどは小さい時から親しみがあり、なんとなく愛着が湧いている人も多いように思いますが蜘蛛は結構、嫌われていることが多いように思います。
しかしよく考えてみたら、身近にいつもいる昆虫たちは人間と共生してきたから傍にいるのであり、人間の営みが自分たちにとっても都合がよいから一緒に生きてきたとも言えます。
他にもツバメやニワトリ、犬や猫、もっと以前になれば牛や馬などの動物たちも人間と共生してきました。
お互いの長所や役割を上手く活かしながら、共に生活を営む仲間がいるというのはこれは大きな暮らしの智慧であるように思うのです。そしてこれは自然の共生の原理であり、すべての生物たちはそのようにして仲間をつくり共に互助関係を築き上げていのちを助け合い繋いできたとも言えます。
改めて考えてみると、それぞれの生態系を調べていくことはどのように共生してきたか、また身近な生きものたちから自分たちが何を学んできたかを発見する鍵でもあります。共生の智慧を学ぶこともまた、身近な生き物を深めていく中で自明するように思います。
例えば、先ほどの蜘蛛という昆虫も偉大な生物の一つです。蜘蛛は糸を出しますが、最長で700m近く出し、風で糸を飛ばしては最長で一日に30キロほど移動するといいます。また餌のあるところを見つけては設けた蜘蛛の巣は毎日手入れのために分解し綺麗に作り直します。蜘蛛は狩の名手でもあり経糸と横糸があり、移動する糸と捕獲するための油のついた糸は分けられ絶妙な巣によって昆虫を捕獲して保存します。
また全世界に生息するクモが食べている昆虫の量は、毎年4億~8億トンに及んでいるとの研究結果が出ていてこれは人間が1年間に消費する肉と魚の総量に匹敵するといいます。しかし同時に蜘蛛は食べられる存在でもあり、8000種以上に及ぶ鳥や他の捕食動物や寄生動物が蜘蛛だけを食べて生きているとも言われます。
蜘蛛が全生物に与える影響をみれば、如何に偉大な存在としてこの地球で共生していることがわかります。身近なミクロな存在であっても、マクロで観直してみればそれが地球全体の貴重な共生の一部であることを知るのです。
私たちが身近な生きものたちと暮らすのは、同時に虫たちや動物たちも人類を同様に生態系を維持する共生の仲間として観られているのかもしれません。
自分のことしか見えなくなるのは、人間の弱点の一つです。
視野を広げて、視座を高めて、もういちど、共生の智慧から学び直していきたいと思います。
コメント
これまでの時代は、「細分化」することによって、それぞれの「専門分野」のレベルを上げるという方法がとられてきました。しかし、その細分化も行き過ぎて、行政もバラバラ、医師の専門もバラバラで、それぞれが自分の分野の視点しか持たず、実生活という全体最適の判断が出来なくなりつつあります。「部分の正しさ」や「個々の好み」を言い出すと収拾がつきません。戦略には「見切り」と「バランス感覚」の両方が必要と言いますが、「共生の世界」には、寛容性を持った一段上の智慧と豊かさが必要です。そろそろ行き過ぎた「部分最適」思想を一旦手放す必要があるのではないでしょうか。