江戸中期に横井也有(西暦1702-1782)という尾張の俳人がいます。この方は尾張藩の要職を務める有能な武士でありながら、晩年はその地位を捨て、風流人として充実した老いを楽しんだ方としても有名です。
よく和食料理店やお寿司屋さんにいくと、お茶を飲むコップに印刷されている健康十訓がありますがこれも也有が記したものです。そこにはこうあります。
『健康十訓』
一.少肉多菜(肉を控えて野菜を多く摂りましょう。)
二.少塩多酢(塩分を控えて酢を多く摂りましょう。)
三.少糖多果(砂糖を控えて果物を多く摂りましょう。)
四.少食多噛(満腹になるまで食べずよく噛んで食べましょう。)
五.少衣多浴(厚着を控えて日光浴し風呂に入りましょう。)
六.少車多走(車ばかり乗らず自分の脚で歩きましょう。)
七.少憂多眠(くよくよせずたくさん眠りましょう。)
八.少憤多笑(いらいら怒らず朗らかに笑いましょう。)
九.少言多行(文句ばかり言わずにまずは実行しましょう。)
十.少欲多施(自身の欲望を控え周りの人々に尽くしましょう。)
これは説明がいらないくらいシンプルな健康を保つ方法であることがわかります。よく私は貝原益軒の話もしますが、通じるものばかりです。
両者に共通するのは、心の持ち方を転換して如何に平静に平安でいることが大切かということを語ります。物事の善悪正否に執着せず、その時々で心を丸く転じていく妙味に言及しているところが多いからです。
現実の世界では確かに様々な影響を受けて肉体も精神も感情も変化していきます。物忘れもひどくなり、色々と周囲に頑固だと迷惑をかけたり変化に順応できなくなってきます。しかし本来の心はいつまでも歳をとらず、瑞々しい好奇心に満ちているものです。
そこで也有はこうもいいます。
「老いは忘るべし。又老いは忘るべからず」
これは世阿弥の初心忘るべからずに通じるものがあります。いつまでも初心のままでいながらも、どう変化に調和していくか。その芸、いや生き方の指針を極意として実践してみせます。
きっと也有も老いていくなかでも、暮らしフルネスであった人生を謳歌した姿を自分から実践をしてみせて幸福とは何かということを人々に伝道したのかもしれません。いつの時代も人間の本質は変わることはありません。
変化に適応しながらも、心静かに暮らしフルネスを実践していきたいと思います。