薬草の知恵

この時期の英彦山にはジキタリスという花を見かけます。一本の茎から下向きにたくさんの花弁をつけます。傍から見ても気になる姿と形でインパクトがあります。山に咲いていると、気になって近づいてまじまじと見てしまいます。

この花は、ヨーロッパ西部・南部原産で和名はキツネノテブクロといいます。この花は、心不全の治療薬として世界で初めて臨床応用された薬剤になったものとして有名なものです。1785年頃に老婆が用いた民間薬をヒントに臨床薬として検証され、その後ずっとこのジギタリスは急性、慢性心不全患者の治療薬として数百年にわたり使用されてきたそうです。さらに調べてみると、古代から切り傷や打ち身に対して薬として使われていたともあります。

英彦山には、数々の薬草が存在しています。気が付かないだけで、よく観察するとむかしから効果のあったものが発見できます。それを知恵として伝承し、あらゆる薬をつくっていたのかもしれません。

今のように化学の力でなんでも薬を調合する時代ではなかったころ、私たちは植物をはじめ自然の中から薬を見出してきました。毒が薬になることを知っていた先人たちは、その用途において使い分けをしていたのがわかります。

例えば、有名な有毒植物にトリカブトがあります。この植物の名前の由来は、その美しい花の形が祭礼に用いる鳥兜という冠に似ていることや、鶏のトサカに似ているからともいわれています。これはキンポウゲ科の多年草で、その根を乾燥させた附子には強い毒性があります。かつてはアイヌの狩猟用の矢毒として使われていたそうです。しかしそのその一方でこの附子は生薬として漢方薬に用いられています。夜間の頻尿対策として高齢者に処方されることが多い八味地黄丸にも含まれているといいます。腎臓機能を回復させるのに使われる薬です。

このように毒は薬にもなり、またその逆もありますが用途と分量次第ではとても役立つものにもなります。

先人たちは、毒をただ悪いものだと思うのではなくなぜ毒があるのか。その毒は薬にならないかと、すべての自然の効果を活用して学び転用してきました。そこには自然への畏敬や、植物への尊敬があったように思います。

薬草の持つ効果や知恵を学ぶことが増えていますが、子どもたちに自然との関りや植物からの恩恵などを伝承しながら未来へ先人の知恵をつないでいきたいと思います。

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