私が郷里で尊敬しているおばあちゃんがいて、昨日はその方と伝承について御話を伺いました。私は以前、色々な語り部の長老とお会いしたことがあります。その長老と同じ風格があり、言葉の一つ一つが心に沁みこみます。
私たちは体験したことでこれは大切であると歴史的に結ばれている話を聴くとき、魂が震えます。それは神話も同じです。大切なことほど、口伝によって伝承していくのです。
現代は、知識が優先し文字が発達しています。映像や写真も便利ですが、口伝にあるような智慧や歴史は入っていません。これは子孫や民族にとっての大変な損失であり、これによって私たちは結ばれてきた歴史を忘れてしまうのです。
おばあちゃんは、幼い頃に体験してきた食事やその味を後世に繋いでおられます。ただ繋ぐだけでなく、子どもたちや今の人たちの健康が保たれるようにと愛情をいっぱいのものを新しく創ります。これは商売ではなく、伝承として取り組んでいるのです。
私は恩送りや徳積などと深く関わっているためか、おばあちゃんの愛情が次の世代へと譲り渡されていく様子に心が感動します。おかあさんやおばあちゃんの味は、懐かしい味であり歴史の味であり、心のふるさとです。
おばあちゃんは、実践者で語り部ですから本もたくさん出版しています。その本のサインにはこうあります。
「食べたものは一生もの、心のふるさとになる」と。
今は、食に情緒がありません。本来は食べることは、人間が産まれてきて死ぬまではじめて充たされる経験を味わえるものです。ただ充たすのか、それとも愛で充たすのか、そこには豊かさの本質が深く関わってきます。
時代が変わり、食事をつくる側も仕事になっていたり、食べる方も単に栄養をとるだけのものになっていたりします。本来は、情緒を味わったり、お互いの徳を感謝しあうものだったりと食はその人の心を形成していく大切なものです。
食が心と結ばれているということを忘れたなら私たちの歴史もまた忘れてしまいます。食の味は、心の味であり、歴史の味であることをいつまでも忘れず、私も伝承者の一人として覚悟を定めて徳の精進をしていきたいと思います。