絶妙な自然の運任せ~樹木の戦略~

先日から樹木について書いていますが、樹木には種を残す数々の戦略が存在します。それはその種を風や動物、または水や重力、そのものが弾き飛ぶことで散布していきます。

その種の蒔き方もそれぞれが独自の形態で進化していますから、巧妙にそれぞれのやり方で試行錯誤した結果として戦略が受け継がれていきます。

今の時代に残っている戦略もまた、時代の篩にかけられてそれを耐え抜くことができた尊い戦略ということなのでしょう。

その樹木から学ぶことは本当に沢山あるのです。

私がとても大好きな言霊の一つに、空也上人の遺したものがあります。

「山川の末に流るる橡殻も 身を捨ててこそ浮かむ瀬もあれ」(空也上人絵詞伝より)

これを意訳すると、「山合の川を流れてきたトチの実は、自分から川に身を投げたからこそやがては浮かび上がり、こうして広い下流に到達することができるのだ。」ということです。

これを成語大辞典(主婦の生活社)によれば「浮かむ瀬」は原歌では、仏の悟りを得る機縁、成仏の機会の意だが、これを窮地から脱して安泰を得るという、世俗一般のこととして、このことわざは使われる。自分を大事と思って、我(が)に執着していてはなかなか道は開けてこないというのであると書かれています。

「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」は広辞苑(岩波書店)では「一身を投げ出す覚悟があってこそ、窮地を脱して物事を成就することができる。」とあります。

先日、橡の実が池にポチャンと落ちては、小川を浮遊しながら水の流れにしたがって遠くへ旅をしていく様を見る機会がありました。障害物にひっかかったり、時には濁流に呑まれたり、色々と旅の最中は大変なのでしょうがきっとそこで流れ着いたところを受け容れるのでしょう。

種がどこにたどり着くのか分からないと不安がり、また水に沈むのではないかと心配したりしていたら種を落とすことはないように思います。もしも人間のように自分の都合で種のタイミングを計ったり、種を落とすのを出し惜しみしていたら、種を落とす間もなくそのまま枯れてしまうかもしれません。

実際はどうなるか分かりませんが、種がどのように広がるのか、それはまるで運任せともいえます。しかしこの運任せということに生き残る智恵が潜んでいるように思えてなりません。

自然界というものは、あるがままを受け容れ、あるがままを許します。その天地の恩恵の中に見守られている真心を感じているからこそ、疑わず自分の身を捨てても厭わないというような戦略を発揮できるように思うのです。

人間にはとかく我執がありますから簡単にはいきませんが、その戦略から自分を奮い立たせ学び直し、そして信じるという実践に転換してきて生き残ってきたのかもしれません。この橡の実の覚悟に人間が無常観を悟るのもまた、生死を度外視するいのちの真価に目覚めるのかもしれません。

周りを見渡せば、あらゆる実践事例に育まれて生きてきた仲間たちが沢山います。今年はイチョウとタブノキを中心に深めてみようと思っています。またブログで紹介していく予定です。

色々と世界の難題は山積みで時折、問題意識ばかりが頭を擡げますがこういう時こそ明るく開き直って絶妙な自然の運任せ、子どもたちのためにもその浮かぶ瀬までの旅を楽しみたいと思います。

 

 

  1. コメント

    水に溺れかけたときは、もがくのをやめ、力を抜いて身を預けると体が浮いてきます。「身を任せる」ということは、「そのものと一体となる」ということであり、そのためには、「自我力」を捨てないといけません。結局、「自分で何とかしよう」とあがいている姿は、大いなる力を信じていないということかもしれません。また、結果を心配して任せきれないのも、大いなる仕組みを信じていないということでしょう。努力を尽くした後の祈りには「すべてをお任せいたします」という全託の心境が必要です。どんな結果も受け入れられるようになるには、大宇宙、大自然の大いなる力とその仕組みをどれだけ信じることができるか、そこにかかっているのではないでしょうか。

  2. コメント

    すべてを任せるほどに、自分を使い切っているか。間違っても自分を自分の為ばかりに使ってはいけないのだと感じます。自然はいつも流れながらにメッセージをくれますが、自分が蒔いている種が我欲の種なのか、それとも希望の種なのか。蒔いた種しか芽は出ないのだと感じます。今起きている出来事から、自分の種の蒔き方を改めて考えていきたいと思います。

  3. コメント

    これまでのやり方だけでは通用しないことを感じ、戦略の重要性を感じています。事前に相手のことを知ることも、準備の進め方も一つひとつに意味があることを改めて感じると、まだまだ出来ること意識一つで幅が広がる思いです。
    TVで軍師官兵衛を見ていると幼少期からの学問もそうですが、仕える殿、そして部下の対しても謙虚さと親しみやすさを感じます。計画をどう立てどう実行するか、そして同時にその人柄も大切なのだと思います。組み合わせ次第で無限に広がる選択から、最善のものを導きだせるよう精進したいと思います。【●】

  4. コメント

    行動を起こす前に頭が働くと、要らぬ心配をしたり結果が気になったりしますが、やってみなければわからず、その結果も初めから全てが善いことだと思っていれば何も気にする必要はないのだと思います。そう信じて行動した経験が次への一歩となる、一円観をもって行動を積み重ねていきたいと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です