古民家や町家を深めていく中で、住みやすさとは何かについて考え直しています。以前、「家が呼吸する」という言葉を教えていただいたことがあります。これは昔の人たちは家が呼吸することを知っていて、ちゃんと呼吸できるように建築していたと言います。法隆寺や正倉院など、今でも長く続き建っているものは呼吸をし生き続けていると言います。
古民家の大きな梁には、今でも木の樹液のようなものが出ています。これも樹がまだ生きて呼吸をしている証拠のようにも思います。他にも部屋に空気が籠ることがなく、常に静かな風が下から上に流れています。寒暖の差、乾湿の差では、隙間が開閉し家そのものが自ら調整しているかのようです。
今の近代住宅というものは、基本的には密閉住宅です。東京で住んでいるマンションは二重窓にしてエアコンや床暖房が効果を発揮するようにつくられています。そのためいつも締め切っていますから夏などはとてもエアコンなしでは生きていけないほどです。
徒然草の吉田兼好に家の建て方について書かれたこういう有名な一文があります。
「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑き比わろき住居は、堪へ難き事なり。深き水は、涼しげなし。浅くて流れたる、遥かに涼し。細かなる物を見るに、遣戸は、蔀の間よりも明し。天井の高きは、冬寒く、燈暗し。造作は、用なき所を作りたる、見るも面白く、万の用にも立ちてよしとぞ、人の定め合ひ侍りし。」
家の建て方は、夏を考えて造りなさいといいます。冬はどうにかなるけれど、蒸し暑い住まいはとても耐えられるものではないからだといいます。その他、具体的な間取りや部屋の配置などのことを書かれます。この日本という風土は、温暖湿潤気候ですから夏の風の通らないムシムシした湿気の室内の辛さは感じたことがあるはずです。
そうならないような家を建てたようですが、その頃はエアコンも扇風機もありませんから昔の人たちは自然を参考に智慧を絞ったように思います。古民家や町家にはその自然の風を通す仕組みがよく考えられており、決して密封密閉したりすることがありません。
よく観ていたら日本の和風建築や伝統的な家の様式には涼を感じる仕組みがあらゆるところに取り込まれています。まるで木蔭に住むかのようなその配置や道具に、日本の四季に逆らわない謙虚な家人の生き方を感じます。
密閉住宅は缶詰のようなもので、外と中を遮断しますが昔の家は外と中がつながっています。夏にはやはり木蔭のようなところのイメージがあります。もっと遡れば、冬は洞穴で、夏は木蔭で、春は草原で、秋は森の中に住んだのかもしれません。
呼吸とは、自然の四季の中で一緒に移ろう循環したときはじめて息をするのかもしれません。四季のめぐりは地球の呼吸ですから、その呼吸に合わせて生きることが呼吸する人であり、その呼吸する人が住んでいる家だからこそ呼吸する家になるのです。
呼吸をするというのは、季節の循環や四季を感じている人になっているということです。それは地球の呼吸と一体であるということであり、昔の人たちはわざわざ密閉密封されたところにいて呼吸を感じられなくすることはしないのです。
住みやすさとは何か、引き続き深めていきたいと思います。
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徒然草の家の建て方から考えると今は何を考え作られているのでしょうか。今住むところからどうしたら快適になるかと、おしゃれそうなものを置いてみたり、便利そうなものを揃えようと試みていましたが、そもそも住むという発想から違うことを感じます。阿部家で用意されていた湯たんぽも湯たんぽそのものの温かさ以上のぬくもりを感じたのは、そこに暮らすからこそ感じる心遣いであったのだと今改めて感じます。今できることは暮らす家に感謝し掃除ももっと丁寧に大事すること、そこから始めていきたいと思います。
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風土は、気温と湿度によってそれぞれに特徴があります。特に日本では、風の通り道をつくってその調整をすることが重要です。「呼吸」とは、これまでの空気を吐き出し、新しい空気を吸うことです。日本の家は、自ら呼吸することによって、その季節と一体となってきたのでしょう。防御のために息を止めて遮断するのではなく、すべてを吐き出してまた吸い込むことは、あらゆるいのちが自然と一体となる方法なのでしょう。
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生前、白洲正子さんは「私にとって大切なのは半分自然の中にいるような状態なの。古い農家を改造した萱葺きの家なら、家そのものが自然と一緒に呼吸をしているようなものでしょう。」と仰っていたそうです。武相荘は素晴らしかったですが、このような言葉はやはり観るだけではなく、そこに暮らした人から発せられる言葉だとも感じました。目の前の一歩から暮らしに自然を取り戻していきたいと思います。
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アイヌの方々の暮らしを調べていくと、−40度を越す冬をどうやって過ごしてきたかという事にたどり着きました。旧土人法で当てがわれた新築木造住宅は冬は使われず、チセと呼ばれる笹葺きの建物を用いて、雪に守られながら、暮らしていたそうです。室温は5度。しかし、体感温度は20度にせまる室内環境を、笹と雪、ほんの少量の薪で実現していたと書かれていました。自然の摂理と共に生きるという事の一端を感じました。また調べ、深めてみたいと思います。