自然の学問~大局観~

現在、知識という便利なものを使ってから体験をすることよりも知識を持つことが価値があるかのような世の中になっています。大学をはじめ研究というものも本来は実践があっての研究であるのに、研究のために実践になっているのなら何の意味もありません。

本来は研究すること目的ではなく、現場が困っているから具体的な解決方法を研究する必要があるのです。そして本来の研究とは、実践ののちの研究のことであり体験したことが何だったか、そこから何に気づき直していけばいいかの改善の集積なのです。

そしてこの改善には、知識ではなく「感覚」を用います。感覚というものを身に着けるには失敗が要ります、失敗を通して様々なものを学び感覚を研ぎ澄ませていくのです。知識が多い人は失敗を過度に怖がります、それは知識は失敗では研ぎ澄ませず修正するだけだからです。習得するのなら、本来の学び方である失敗を通して感覚を身に着ける、古来の言い方では「コツを掴む」ことで学習は成立していきます。

民藝という言葉を起こした思想家に、柳宗悦がいます。その遺した有名な言葉に『見て知りそ 知りてな見そ』があります。これは「なんでも見てから知れ、知ってから見るんじゃない。」ということです。

言い換えれば知識から入ってものを知ってはならぬ、分かった気になってはならぬ、まずは見てから、やってみてからのちに知ればいいし分かればいいと言うことでしょう。

知識を持ったからといってその本質が理解できるわけではありません、具体的な実践を通して本質を知り本物になります。つまり体験の質量こそが、その人の感覚を研ぎ澄まし本来のその人の持つ全身全霊の力を引き出していくということなのです。

現在はすぐに何かをやろうとすると知識から入るものです。私の場合は知識がないけれど好奇心があるからすぐにそのものに触れます。自然農をすればすぐに虫刺されや怪我をします、古民家を再生しようとすればすぐに弱いものを毀してしまいます。痛い思いをして失敗ばかりをしては、なぜこうなったのだろうと反省内省してそこからもう一度すぐにやり直してみます。

その繰り返しを何度も何度もしているうちに、自分のカラダの中にある「感覚」が呼応してきます。そうしているうちに身に着けたのは「大局観」です。つまり事物の大局を理解するチカラ、そのものに触れるチカラ、邂逅の力のことです。

人は触れていくことで次第にそのものが”自分に馴染んで”きます。この馴染んでくるというのは場数とフィードバックが欠かせません。そうやって何度も失敗して経験して学び直していくことが成長することであり、成功よりも大切な学問の醍醐味、そして連綿と続いてから太古からの道と大義が感じられるものです。

どんなことも「見て知りそ、知りてな見そ」で、接していく姿勢こそが自然の学問ということでしょう。引き続き、挑戦を愉しみ与えていただいている失敗に感謝して歩んでいきたいと思います。

 

  1. コメント

    以前は刷り込まれていることすら分かっていませんでしたが、挑戦するごとに得る気づきのおかげで今があることを感じます。知識で満足していたら実際には何もせず、やった気になってしまいますが、周囲の挑戦する姿にまた力を頂いていることも感じます。本を読むだけなら一人でできますが、目指しているものが大きいからこそ、やってみないと始まらないのだと感じています。頭を働かすよりも、きっと善いことになると歩みを進めていきたいと思います。

  2. コメント

    以前は、「知識は経験の代わりになる」と思っていましたが、現在は、「知識」は現実の断面であり、一側面の説明でしかないということがよくわかります。「経験」とは、「ものをそのまま捉えること」であり、「本質に触れること」です。それを言葉では説明できないけれども、この「説明できない理解」はとても魅力的です。これからも、一つひとつの経験を大事にし、しっかり魂で味わっておきたいと思います。

  3. コメント

    口では幾らでも正論も理想も言えますが、実際に行うとなると難しいことを感じます。こちらは教えたつもりになり相手は分かったつもりになる、これでは現実は何も変わらず目指しているものにも近づきません。点塾で学びの機会をいただいた「教えない教育」その意味を改めて実践で深めながら本質を掴んでいきたいと思います。

  4. コメント

    失敗を避けて過ごすことの怖さを感じます。日頃や日常を仕事と分けずにいると、自分の暮らしの分野で挑戦し、失敗をする事が出来ますが、そのありがたさというか、その生き方の価値の本質に触れる為には、好奇心からの行動や心が先立っての行動になっている事が大切だと感じます。そうでないと、また得られるものは体験と言う名の知識でした。頭より先に働いているものがあるか。常に確認して行きたいと思います。

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